2023年1月10日
リバースモーゲージ
【FP解説】国が提供する「生活保護制度」としてのリバースモーゲージについて

公的なリバースモーゲージがあると聞いて驚く人もいるようです。もちろんセーフティーネットとしての生活保護の代わりに活用されることも多いので、民間の制度設計とはかなり違ってきます。そこで社会福祉協議会を窓口とする国の2種類のリバースモーゲージ制度である不動産担保型生活資金と要保護世帯向け不動産担保型生活資金を貸付限度額や月々の貸付額など具体的に説明。さらに民間の制度と違いなども分かりやすく解説しました。

国が運営するリバースモーゲージとは?

住宅を担保に資金を融資するリバースモーゲージ制度を、耳にしたことはありますか? 人生100年時代の切り札として、メディアで取り上げる機会も増えてきたようです。
このリバースモーゲージは大きく分けて民間と国が実施する2つの計3つに分かれます。

①不動産担保型生活資金
②要保護世帯向け不動産担保型生活資金
③民間プラン

この①と②の制度は、いわゆる国が実施しているリバースモーゲージで、①と②は保証人の有無や貸付限度額といった違いがありますが、大きな特徴は生活に困窮している高齢者世帯の生活支援とした制度であることです。

じつは生活保護の受給は、原則として持ち家の所有を認めていません。資産は売却し、それでも足りないときに支給するのが生活保護だからです。ただし住宅の場合は、資産価値が高すぎなければ売却しなくても生活保護を受けられるようにはなっています。逆に言えば、地価の高い場所にある持ち家は売却する必要があるのです。

しかし高齢者が自宅を売却して住居を移すのは心理的なマイナス面があるだけではなく、自宅を売ってアパートを借りようとしても高齢者の入居を断る不動産も少なくありません。こうした問題の解決に大きな力を発揮しているのが、国が実施しているリバースモーゲージなのです。

不動産担保型生活資金について

国が実施する①不動産担保型生活資金と②要保護世帯向け不動産担保型生活資金の違いは何なのでしょうか?
① の不動産担保型生活資金から説明していきましょう。

まず、対象年齢ですが、原則65歳以上です。申込者は自宅の不動産を所有していなければなりません。しかも、その不動産に貸借権等の利用権や抵当権等の担保権が設定されていないことが条件です。
ここで見逃してはいけないのが、建物だけを所有しているケースや分譲マンションでは、この制度が使えないこと。あくまでも住居の土地は持っているだけれど、現金がないケースに対応している制度なのです。

また、市町村税の非課税世帯または均等割課税世帯程度という低所得世帯の条件も定められています。さらに世帯に親以外の同居人がおらず、全員が65歳以上であることも必要です。
つまり、高齢者世帯の支援のために制度化されたリバースモーゲージだということです。

貸付の限度額は、土地の評価額の70%程度となっています。もちろん住居用の土地さえ持っていればいいというのではなく、おおむね1500万円以上の評価額が必要とされています。ただし1000万円でも制度を使える可能性があるとも書いてあるので、評価額が1500万円に届かなくても、まずは相談というのが正しいスタンスのようです。

臨時の増額は可能ですが、貸付額は1ヵ月30万円いないと決まっています。
利子は、金融機関が企業に対して期限1年以上の融資をするさいの最低限度となる金利「長期プライムレート」か年利3%のいずれか低い方となります。つまり最高でも利子は3%。ちなみに2020年4月に発表された長期プライムレートは1.10%です。

また、この制度は遺産の相続人から一人を保証人にしなければならない決まりがあります。

相談や事務手続きは、市区町村の社会福祉協議会が窓口となっているので、わからないことがあれば、社会福祉協議会に出向くのがいいでしょう。

要保護世帯向け不動産担保型生活資金について

要保護世帯向け不動産担保型生活資金は、どのような制度なのでしょうか。
先に説明した「不動産担保型生活資金」と一番大きな違いは、土地だけではなく建物や分譲マンションを所有している人でも使えることです。ただし生活保護が必要だと認めた世帯しか活用できません。

もう少し全体を詳しく説明していきましょう。
土地や建物に必要な評価額は、「不動産担保型生活資金」より安い500万円以上となっています。もちろん抵当権や賃貸権などが設定されていないことも条件です。

対象者が65歳以上の世帯であること、申込み者の親や配偶者以外の同居人がいないことなどは、上記の「不動産担保型生活資金」と同じです。

さて、貸付の限度額ですが、土地・建物の場合は評価額の70%程度ですが、マンションの場合は評価額の50%程度です。土地や建物を所有しているケースよりも、分譲マンションを所有している方が担保の評価が低いのです。

貸付額は生活保護費の1.5倍以内です。ただしその分だけ生活保護よりも生活がラクにというわけではありません。この制度は、あくまでも貸付なので、生活保護ではありません。そのため国民健康保険料や医療費の自己負担分、介護保険料、固定資産税など支払いが必要になってくるからです。

利子は「長期プライムレート」か年利3%のいずれか低い方で、貸したお金と利子が貸付限度額に達すると貸付期間も終了します。ただし限度額に達したからといって、自宅がすぐに売却されるわけではありません。生活保護の受給などに切り替えられることが多いようですが、限度額が近づいた場合は福祉事務所などに相談することになります。

民間の金融機関のリバースモーゲージとの違い

民間の金融機関が実施するリバースモーゲージと国が実施する制度は、どんなところが違うのでしょうか。そのポイントを簡単に説明していきます。

年齢の違い

国のリバースモーゲージは契約時の年齢が65歳以上ですが、民間は50歳以上です。国の場合はあくまでも高齢者のためのセーフティーネットですが、民間は資産の活用といった視点を持った制度です。そのため契約時の年齢制限も、民間の方が緩くなっているのです。

使用目的の違い

国はあくまでも生活を支えるための制度なので、自宅が壊れたといった場合の増額は認められますが、旅行のための増額は認められません。民間のリバースモーゲージは、生活を豊かにするための制度なので、充実した人生を送るために活用する制度だといえるでしょう。

一定の所得が条件

民間のリバースモーゲージの場合は、年金など安定継続した収入が必要になってきます。民間の制度がセーフティーネットではないという視点で考えれば、納得の条件といえます。

まとめ

老後の人生設計が難しいのは、寿命がいつまで続くかわからないことです。1960年の男性の平均寿命は65歳でした。じつは、今後も平均寿命は延びるのではと言われています。その生活資金をどう工面するのか考えたとき、自分の資産である持ち家を住み続けながら活用できるのは、大きなメリットです。
人生の前半で自宅を購入し、収入が減少傾向になる後半戦はその資産を活用して充実した人生を送る。それがリバースモーゲージを活用した人生設計です。

もちろん自宅をセーフティーネットの一部として活用しなければならないケースは、国の制度活用が一般的でしょう。しかしリバースモーゲージをポジティブな人生設計として活用するためには、民間の自由度の高さが必要になってきます。

 

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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