2023年1月10日
老後
【FP解説】老後に必要な資金はどれくらい?老後資金の貯め方や今からできる準備方法を説明

老後にどのくらい生活費として資金が必要か、ご存知でしょうか。「年金があるから大丈夫」と、気楽に構えていられる時代は遠い過去になりました。人生100年時代といわれ、老後の人生が長くなるにつれ、当然ながら必要な資金も多額になります。老後、何にどのくらいかかるのか、公的年金など収入がどのような形で見込めるのか、NISA iDeCoなどを活用した今からできる貯め方も解説します。

老後資金とは

老後資金とは、勤務していた会社を退職してから必要なお金のことを指します。生活するのにお金が必要なのはもちろん、退職したならこれまで我慢していた分、旅行や趣味などを思い切り楽しみたいものです。人生を楽しむためにもまた、十分なお金が必要です。

総務省の調査によれば、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦世帯における月々の支出は、平均27万円程度です。これに対して公的年金などの給付は19万円なので、シニアであっても働かない限りは月々8万円の赤字が出ることになってしまいます。

65歳の夫が90歳まで生きるとすれば、25年間も8万円の赤字が出続けることになり、持ち出しの合計は2400万円に膨れ上がります。冠婚葬祭や旅行といった、まとまった支出が度々あることを考えると、資金はもっと必要です。よく「老後資金は2000万円が必要」といわれますが、この金額は、そう驚くものでもなく、現実的な数字です。

必要になる老後資金のシミュレーション

ここで、各自必要となる老後資金をシミュレーションしてみましょう。具体的には、以下の計算式を使います。

A (公的年金の収入-1ヶ月の家計支出)×12カ月×寿命までの年数

B 予備費としてとっておきたい金額

(住居のリフォーム代、車の買い換え、旅行費、子世代への援助、葬儀代など)

C 退職金や個人年金など老後に確保できる金額

A+BCが、老後の必要資金となります。

仮に、先ほど紹介した平均的なシニア層の収支を例とすると、必要金額は以下のように算出されます。

夫:65歳(会社員→定年退職)

妻:60歳(夫の会社員時代はずっと被扶養者)

寿命:夫婦ともに90

A (19万円-27万円)×12ヶ月×25年=2400万円

B 1200万円

【内訳】

住居リフォーム代(バリアフリー+屋根修繕+水回り修繕) 300万円

車の買い換え(200万円×2回) 400万円

旅行費(海外旅行50万円×4回) 200万円

葬儀代(150万円×2人) 300万円

C 2000万円

【内訳】

退職金 2000万円

2400万円+1300万円―2000万円=1600万円

よって、1600万円がこの夫婦の老後に必要な資金です。

老後に必要な資金

「そんなに、用意できるわけがない」と思ってしまう人もいるでしょう。では、老後は具体的にどんなことにお金がかかるのか、項目ごとに見てみましょう。

食料費

子どもが独立するため全般的な支出は抑えられるかもしれませんが、シニアは健康のためにもぞんざいな食事をするわけにはいきません。若い世代より支出に占める食料費の割合がやや高くなる傾向があります。

参考:2019年度家計調査報告

保険医療費

シニアになると病院通いの回数が増えます。大きな病気をすると、かなり大きな金額がかかってしまうこともあります。3割負担で考えると、一度血液検査をすれば3000円程度、レントゲンなら600円ほどかかります。入院一日あたりの自己負担費用は、11万円ほど。入院費の一部を保険でまかなうにしても、年金暮らしには手痛い出費です。

住居費

ローンを払い終えて住居費はひと段落という人もいることでしょう。ただしシニア用の住宅に住み替えなどすると、また住居費が発生するようになります。

交通・通信費

退職後は通勤定期が使えません。平日も休日と変わらず活発に活動する人は、交通費が増えることでしょう。家にいる時間が増えると、携帯電話やインターネットなどの通信費も増大するかもしれません。

交際費

総務省統計局のデータによると、65歳未満の世帯と比べて1.91倍と、シニアの家計で特に大きな割合を占めているのが交際費です。子や孫などへの贈り物による費用が大きいと考えられています。

参考:総務省統計局「高齢者の家計

老後の収入

では、老後はどのような形での収入が見込めるのでしょうか。以下の7つが考えられます。

公的年金

国民年金と厚生年金があり、働き方によって受け取り方が変わってきます。

厚生労働省が出している「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和3年度)」によると、厚生年金保険受給者の老齢年金平均月額は14万6千円です。国民年金にあっては、56千円です。

参考:「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和3年度)」

企業年金

勤務している企業によっては、さらにプラスの年金を受け取れます。企業型確定拠出年金、確定給付企業年金などがあります。

退職金

退職金も、立派な老後資金になりえます。一時金としてまとまった金額を受け取ることができる企業と、年金の形で受け取れる企業とがあります。一時金か年金か、受け取り方を選択できる企業もあります。

継続雇用

定年後も継続雇用を行う企業があります。元気でまだまだ働けるうちは、新しく仕事を探すよりも、慣れた職場で働くのが良いでしょう。

パート・アルバイト

新しくパートやアルバイトを探すという手もあります。深刻な人手不足の中、シニアが受け入れられている職場は数多くあります。

起業

退職してから起業するという人も珍しくありません。飲食店、ネット起業、農業など。

リバースモーゲージ

自宅を担保に借り入れを行うことにより手元資金の収入を得ることができる仕組みです。借り入れ金の元金の返済は、契約者が亡くなってから、自宅を売却すること等で返済を行います。持ち家世代であるシニアのなかで、注目されている資金調達方法です。

老後資金の貯め方や準備

老後資金は、退職する前からコツコツ貯めておく必要があります。具体的な準備方法は、以下の通りです。

積立定期預金

一定期間引き出せない定期預金であれば、老後のために毎月少しずつ貯めることができます。

財形貯蓄

賃金から天引きで行う財形貯蓄なら、意識しないうちにまとまった資金を貯められます。60歳以降、年金として支払われる財形年金貯蓄であれば、利子等に対して非課税措置も受けられます。

個人投資

投資信託、外貨預金、国債、株式、FX、先物取引などで資金運用を行います。利益が大きくなる可能性がある一方、損失が発生する可能性もありますので、初心者は少額から、プロの手ほどきを受けながらがおすすめです。

NISA

個人投資の運用益が非課税になる制度です。毎年120万円最大5年間保有できるの非課税投資枠が設定されている「NISA」、毎年40万円最大20年間の投資信託による少額からの長期・積立・分散投資を支援する「つみたてNISA」があります。

iDeCo

個人型確定拠出年金であるiDeCoは、自分で準備する年金として近年注目が集まっています。自分で掛け金の金額を決められ、引き出しは原則60歳以降となります。掛け金の全額が、所得控除の対象になります。

リバースモーゲージ

自宅を担保に借り入れを行う仕組みです。借り入れ金の元金の返済は、契約者が亡くなってから、相続人の方より、自宅を売却すること等で返済を行います。持ち家世代であるシニアのなかで、注目されている資金調達方法です。

リバースモーゲージとは? 仕組みとメリットやリスクなど注意点をわかりやすく解説!

小規模企業救済

自営の人向け。小規模企業の経営者などが、退職・廃業に備えて積み立てる制度です。掛け金は全額所得控除できます。

老後に自分自身はいくら必要なのかシミュレーションするのが大事

以上、老後資金について解説しました。しかし、ご紹介したのはごく一般的な例です。「老後は田舎に移住するからたいして生活費はかからない」「自営だから体が弱るまで働くつもり」など、事情は十人十色でしょう。

実際に自分たち夫婦は老後にいくら必要なのか、きちんと話し合ってシミュレーションしてみるのが大事です。現在の家計簿を見直したうえで、将来はどのような支出になるのかを具体的に考えて、老後にやりたいことも含めて必要な金額を割り出してみましょう。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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