2023年1月15日
老後
【FP解説】老後資金2000万円問題とは?老後に必要な資金の内訳や今からできること

2019年、老後資金が2000万円不足するという報告書が金融庁より発表されると話題になりました。この問題は政府が幕引きを図ったことで収まりましたが、老後の経済不安がなくなったわけではありません。そこで「老後資金2000万円問題」がどのような経緯で発生したのか、実際に老後の生活費としていくら収入が必要なのか、年金や退職金で賄えるのか、そしてNISAなど資産形成の方法などを解説します。

老後資金2000万円問題とは

「老後資金に2000万円必要」という話がマスメディアで取り上げられ、大きな話題となったのは2019年6月でした。発信の元になったのは、金融庁の「高齢社会における資産形成・管理」という報告書。年金制度改革のキーワード「100年安心」はウソだったのかと批判の声が強まり、最終的に正式な報告書への手続きを取らず事実上撤回されました。

では、金融庁はどうしてこのような報告書を作成しようと考えたのでしょうか?
この報告書をまとめた審議会では、「(政府の)現状認識が厳しいとしっかり見せる必要がある。批判があっても(年金が減ると)認識することが次世代には必要だ」(『朝日新聞』2019年6月8日)といった声が委員から出ていたようです。寿命が延びるのに合わせて、蓄えとなる「資産寿命」を延ばすように呼びかけたいといった意図があったとも報じられています。

こうした批判の背景にあるのが、政府が年金改革で掲げた「100年安心」というスローガンでした。年金を収めていれば老後は安泰と思っていた人にとって、2000万円の不足は大きな衝撃となったのです。総務省統計局の「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2019年(令和元年)平均結果-」によれば、世帯主が60歳以上の2人以上の世帯で、2000万円以上の貯蓄高を誇るのは38.5%。つまり約6割もの人が老後資金の不足を、この報告書で指摘されたことになります。

こうなると気になってくるのが、この報告書の指摘がどれだけ正しかったのかどうかでしょう。
この報告書に記載された2000万円不足の根拠は、3つの前提があります。

  • 夫65歳、妻60歳の夫婦で無職
  • 夫95歳、妻90歳まで夫婦ともに健在
  • 老後30年間は、毎月5.5万円の赤字

この月5.5万円の赤字が30年間となると、1980万円が足りなくなるというのが報告書の示したモデルケールです。年金は夫婦併せて19万1880円と試算、月々の支出は総務庁の「家計調査」の高齢者の無職世帯の平均値から算出。「家計調査」の数値がやや高いのではという指摘はありましたが、かけ離れているという数字もありません。寿命についても、近年の平均寿命の伸び率を考えれば妥当な数字と言えそうです。
つまり報告書自体が撤回されても、年金をめぐる厳しい現実は変わらないということです。

老後に必要な資金の内訳

では、老後にはどんな資金が必要なのでしょうか?
2018年の家計調査から70歳以上世帯の消費支出を書き出してみましょう。

  • 食料:6万9,234円
  • 交通・通信:2万5,919円
  • 教養娯楽:2万2,794円
  • 光熱・水道:2万1,882円
  • 保健医療:1万5,135円
  • 住居:1万4,347円
  • 家具・家事用品:9,582円
  • 被服及び履物:6,745円
  • 教育:482円
  • その他の消費支出:5万0,913円

この内訳を見て、住居費の安さに驚いた人も多いでしょう。じつは家計調査によれば、老後に賃貸住宅で暮らす人は約1割程度しかいないのです。そのため金額の平均はかなり低くなってしまいます。高齢世帯における家賃のボリュームゾーンは4~6万円なので、賃貸住宅で暮らす場合は、その分の家賃を計画しておく必要があります。

消費支出のトップは「食料」。夫婦2人で約7万は少し高いのではという意見もあるようですが、これも平均値を割り出した結果といえそうです。5万円を超えている「その他の消費支出」には、化粧品や交際費などが含まれています。

この家計調査で重要なのは、この項目に入っていない必要な資金があることです。例えば、老人ホームに入るためのお金や介護を円滑にするための自宅のリフォーム費用などは、家計調査に含まれていません。さらに冠婚葬祭の費用や孫などのお祝いといったものも、この調査に入っていないのです。

老後資金2000万円問題は家計調査から算出していますので、上記のような資金を足すと、資金不足は2000万円では収まらないということになります。バリアフリーのためのリフォーム費用や高齢者住宅に入るために必要な費用は、介護の状態によっても変わってくるので、より費用がかかる可能性があることは覚えておきましょう。

なお、年金受給額は国民年金か厚生年金かで大きく違います。老後の平均消費支出金額と平均年金受給額を比較すると、月々いくらの赤字が出るかが分かります。30年間でいくらの赤字が出るのかを計算したところ、以下のような結果となりました。

共働き夫婦

(厚生年金×2

会社員の夫と専業主婦(厚生年金+国民年金)

男性単身(厚生年金)

男性単身(国民年金)

女性単身(厚生年金)

女性単身(国民年金)

年金額(月額)

26万6,398

21万7,182

16万3,840

5万8,775

10万2,558

5万3,342

消費支出(月額)

23万5,615

23万5,615

14万9,603円※

14万9,603円※

14万9,603円※

14万9,603円※

赤字額(月額)

0円

1万8,433

0円

9万828

4万7,045

9万6,261

30年ぶんの赤字額

0円

663万5,880

0円

3,269万8,080

1,693万6,200

3,465万3,960

※男女別のデータなし

データ出典:家計調査報告書(家計収支編)2018年(総務省)

平成30年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況(厚生労働省)

この表を見れば、ひとくちに「2000万円必要」ともいえないことがわかるでしょう。自分の場合はどのくらい赤字になるのか、今の家計支出と、「ねんきん定期便」などで分かる将来の年金額を引き比べて計算するのがおすすめです。

老後資金に必要な長期的な資産形成

老後資産には、長期的な資産形成が必要です。これからすぐに資産形成を始めることで、老後に使えるお金は増えていきます。とくに近年注目されている老後資産の形成方法として、「NISA」と「iDeCo」をご紹介します。

NISA

NISAとは、少額非課税投資制度のことです。株式や投資信託などで投資を行った場合、通常は利益や配当金におよそ2割の税金がかかります。しかしNISAの口座を開くと、毎月一定額の範囲内であれば、投資した結果得られる利益に税金がかかりません。
NISAには一般的なNISAとつみたてNISAがあります。一般的なNISAの非課税保有期間は5年間、年間非課税枠は120万円です。一方、つみたてNISAの非課税保有期間は20年間、年間非課税枠は40万円です。
投資信託で長く積み立て、老後の資金にと考えるなら、つみたてNISAのほうが適しています。
ただし2024年度からは、NISA制度が大幅に変更される予定です。つみたて投資枠は年間120万円になり、非課税保有期間は無期限化します。NISAの口座を開設する際は、制度改革について詳しく知っておきましょう。

参考:「新しいNISA」(金融庁)

iDeCo

iDeCoは、個人型確定拠出年金の略称です。自分が拠出した掛金を、自分が運用方法を選んで運用します。そして掛金と運用益との合計額が、公的年金にプラスされる形で受け取れます。
掛金、運用益、給付を受け取るとき、いずれも税制上の優遇措置が講じられています。自分の年金を自分で「育てる」視点ができ、お金の勉強にもなります。いずれ一般的な投資信託や株式投資を始めたいという人は、入門編として始めてみてはいかがでしょうか。

老後資金2000万円問題の注意点

老後資金2000万円問題から目を背けないにしましょう。求める生活レベルによって必要な老後資金は変わってきますが、一定以上の貯蓄が必要なことは間違ないようです。どれぐらい貯蓄ができるのかがわからないと感じる人は、ファイナンシャル・プランナーに相談するといった方法もあります。ムダを省いて貯蓄に回しましょう。

投資については、安全性を重視して選びましょう。将来の生活資金を得るためなので、利益率よりも安全性を重視すべきでしょう。またマイナスが出ても問題ない程度の金額に投資額を抑えましょう。損を最小限に抑えられるような精神的な余裕が、老後資金のための投資には必要です。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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