
老後資金2000万円問題とは?老後に必要な資金の内訳や今からできること
2021年1月15日 (2021年3月27日更新)
2019年に老後資金が2000万円不足するという報告書が金融庁より発表されると話題になりました。この問題は政府が幕引きを図ったことで収まりましたが、老後の経済不安がなくなったわけではありません。そこで「老後資金2000万円問題」がどのような経緯で発生し、必要な老後資金がどんな内訳になるのか、どれぐらい必要なのかを公的な資料などを参考にしながら読み解いていきましょう。
老後資金2000万円問題とは
「老後資金に2000万円必要」という話がマスメディアで取り上げられ、大きな話題となったのは2019年6月でした。発信の元になったのは、金融庁の「高齢社会における資産形成・管理」という報告書。年金制度改革のキーワード「100年安心」はウソだったのかと批判の声が強まり、最終的に正式な報告書への手続きを取らず事実上撤回されました。
では、金融庁はどうしてこのような報告書を作成しようと考えたのでしょうか?
この報告書をまとめた審議会では、「(政府の)現状認識が厳しいとしっかり見せる必要がある。批判があっても(年金が減ると)認識することが次世代には必要だ」(『朝日新聞』2019年6月8日)といった声が委員から出ていたようです。寿命が延びるのに合わせて、蓄えとなる「資産寿命」を延ばすように呼びかけたいといった意図があったとも報じられています。
こうした批判の背景にあるのが、政府が年金改革で掲げた「100年安心」というスローガンでした。年金を収めていれば老後は安泰と思っていた人にとって、2000万円の不足は大きな衝撃となったのです。総務省統計局の「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2019年(令和元年)平均結果-」によれば、世帯主が60歳以上の2人以上の世帯で、2000万円以上の貯蓄高を誇るのは38.5%。つまり約6割もの人が老後資金の不足を、この報告書で指摘されたことになります。
こうなると気になってくるのが、この報告書の指摘がどれだけ正しかったのかどうかでしょう。
この報告書に記載された2000万円不足の根拠は、3つの前提があります。
- 夫65歳、妻60歳の夫婦で無職
- 夫95歳、妻90歳まで夫婦ともに健在
- 老後30年間は、毎月5.5万円の赤字
この月5.5万円の赤字が30年間となると、1980万円が足りなくなるというのが報告書の示したモデルケールです。年金は夫婦併せて19万1880円と試算、月々の支出は総務庁の「家計調査」の高齢者の無職世帯の平均値から算出。「家計調査」の数値がやや高いのではという指摘はありましたが、かけ離れているという数字もありません。寿命についても、近年の平均寿命の伸び率を考えれば妥当な数字と言えそうです。
つまり報告書自体が撤回されても、年金をめぐる厳しい現実は変わらないということです。
老後に必要な資金の内訳
では、老後にはどんな資金が必要なのでしょうか?
2018年の家計調査から70歳以上世帯の消費支出を書き出してみましょう。
- 食料: 6万9234円
- 交通・通信: 2万5919円
- 教養娯楽 :2万2794円
- 光熱・水道 :2万1882円
- 保健医療 :1万5135円
- 住居 :1万4347円
- 家具・家事用品:9582円
- 被服及び履物:6745円
- 教育:482円
- その他の消費支出: 5万0913円
この内訳を見て、住居費の安さに驚いた人も多いでしょう。じつは家計調査によれば、老後に賃貸住宅で暮らす人は約1割程度しかいないのです。そのため金額の平均はかなり低くなってしまいます。高齢世帯における家賃のボリュームゾーンは4~6万円なので、賃貸住宅で暮らす場合は、その分の家賃を計画しておく必要があります。
消費支出のトップは「食料」。夫婦2人で約7万は少し高いのではという意見もあるようですが、これも平均値を割り出した結果といえそうです。5万円を超えている「その他の消費支出」には、化粧品や交際費などが含まれています。
この家計調査で重要なのは、この項目に入っていない必要な資金があることです。例えば、老人ホームに入るためのお金や介護を円滑にするための自宅のリフォーム費用などは、家計調査に含まれていません。さらに冠婚葬祭の費用や孫などのお祝いといったものも、この調査に入っていないのです。
老後資金2000万円問題は家計調査から算出していますので、上記のような資金を足すと、資金不足は2000万円では収まらないということになります。バリアフリーのためのリフォーム費用や高齢者住宅に入るために必要な費用は、介護の状態によっても変わってくるので、より費用がかかる可能性があることは覚えておきましょう。
老後資金への備え方
まず、支出を減らすことが重要です。家計を見直してムダな支出を抑えたり、ボーナスなどを使って住宅ローンを繰り上げ返済すれば、貯蓄を増やすことが可能になります。
また年齢を重ねても働き続けられるように準備をするのも大切でしょう。会社で再雇用を目指すだけではなく、副業になりそうなスキルを磨き資格を取得しておくのもおすすめです。副業の収入が現役時代と比べて「お小遣い程度」と感じるかもしれませんが、年金の補助と考えれば無視できない金額となります。今後、企業が副業を認めるようになるとも言われていますので、定年前に副業のスキルを磨いておきたいものです。
資産運用なども退職金を元手に始めるのはおすすめできません。現役時代から無理のない金額を安全に運用していき、勉強を重ねながら利益を少しずつ積み上げていくのがベストでしょう。
そして最も重要なのが健康です。健康を損なってしまうと老後資金が医療費に消えるだけではなく、楽しい老後を過ごすことができにくくなります。生活習慣病にかからないように努め、規則正しい生活を送るようにしましょう。
老後に必要な資金はどれくらい?老後資金の貯め方や今からできる準備方法を説明
老後資金2000万円問題の注意点
老後資金2000万円問題から目を背けないにしましょう。求める生活レベルによって必要な老後資金は変わってきますが、一定以上の貯蓄が必要なことは間違ないようです。どれぐらい貯蓄ができるのかがわからないと感じる人は、ファイナンシャル・プランナーに相談するといった方法もあります。ムダを省いて貯蓄に回しましょう。
投資については、安全性を重視して選びましょう。将来の生活資金を得るためなので、利益率よりも安全性を重視すべきでしょう。またマイナスが出ても問題ない程度の金額に投資額を抑えましょう。損を最小限に抑えられるような精神的な余裕が、老後資金のための投資には必要です。
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