2023年3月16日
老後
【FP解説】退職金の運用方法で注意することは?投資信託などの資産運用の注意点

退職金は、退職するときに慰労の意味で支給されるお金です。定年まで勤めあげた後の退職金となれば、ある程度まとまったお金が支給されます。どのように使おうかと、悩む人は多いでしょう。老後の資産を確保するため、定期預金に入れておくのはもったいないと投資信託やファンドラップなど資産運用を始める人も多いですが、運用にはメリットとデメリットがあります。なかなか相談できない退職金の運用方法や注意点、おすすめできる運用の考え方について解説します。

退職金運用の必要性

退職金は、どのくらいもらえるものなのでしょうか。「平成30年就労条件総合調査」(厚労省)によれば、定年退職時の退職金の平均額は、高校卒(現業職)で1,159万円、高校卒(管理・事務・技術職)で1,618万円、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で1,983万円となっています(勤続20年以上かつ45歳以上の場合)。

一方で、老後の資金としては、夫婦二人暮らしで2,000万円ほどが必要とされています。しかし、大学・大学院卒の退職金ですら、2,000万円には届きません。

もちろん、定年後も働き続ければ、老後資金を獲得し続けることが可能です。しかし、元気に働けるうちはいいものの、加齢とともに体力や気力が減少していき、やがて働けなくなる日が来ます。

退職金を運用しておけば、必要資金の2,000万円に、確実に近づきます。さらに運用で資産を増やすことができれば、豊かなシニアライフが待っています。

退職金の運用は、老後の経済的不安を解消し、第二の人生を明るく歩むために必要なものです。

退職金の使い道

退職金は、全て運用に回せば良いというものでもありません。退職金の使い道として、「定年まで勤めあげたのだから」と記念に夫婦二人で海外旅行などに出かけることが挙げられます。高齢になる前に家をバリアフリー化する、リフォームもいいでしょう。まだ自立していない、子どもや孫の教育費にあてる場合もあります。

このように、退職金には今後の生活費以外にも使い道がたくさんあります。例え2,000万円以上の退職金があったとしても、安心はできません。娯楽や子どもへの贈与、住宅費用などでまとまったお金が出ていけば、すぐになくなってしまうといっても過言ではないでしょう。

よって退職金については、もらった直後から、あるいはもらう前から運用について綿密な計画を立てておくのがおすすめです。

退職金の運用で注意すること

退職金の運用で注意すべきなのは、「増やす」に重きを置くのではなく、「維持」を心がけることです。退職金は、一般的な余剰金とは異なります。定年を迎えると、以前のような給与は得られなくなりますから、生活費が足りない場合は預貯金を取り崩していくことになります。退職金は、老後の資金が少なくなったときの砦として考えなければなりません。

ハイリスクな運用を繰り返していれば、運用益が得られるどころか元本割れするケースもあります。老後の資金が元本割れしてしまうというのは、生活に関わる大ピンチです。今の金額を維持するためにも、リスクの高い投資は避け、少々リターンに魅力が乏しくても安心してお金を預けられる商品を見つけましょう。

またとくに投資の初心者である場合は、専門家の意見を得ながら投資をしないと、思わぬ損を被ることがあります。初めての投資は慎重に、手数料を支払ってでも専門家を介して行う方が無難です。

退職金の運用で大切なこと

退職金の運用ポイントは、まだまだあります。とくに大切なのは、以下の3つです。

当面必要な金額を計算し、それには手をつけないでおく

退職金全てを運用に充てると、必要な生活費に困ってしまう恐れがあります。これまでの家計から12年分の生活費を割り出し、その分を普通預金の口座などに確保しておきましょう。近いうちにリフォームが必要、孫の進学時に金銭面でサポートしたいなど、まとまった出費がありそうなら、それについても確保しておき、余剰金を投資に充てます。

夫婦2人暮らしの場合、老後にかかる最低限の生活費は、最低でも1ヶ月で22万円ほどです。1年分なら264万円、2年分なら528万円を確保しなければならない計算になります。生活費として何にいくらかかるかは、以下の記事も参考にしてください。

参考:シニア向けローン相談所 老後の生活費はいくら必要?

長期的な運用を心がける

シニアの生活は時間にゆとりがあるものです。投資に利益が出ているか頻繁に調べ、一喜一憂してしまう可能性があります。しかし、投資は長期的な運用が利益を出すコツです。長期投資を行うと、利子にまた利子がつく複利効果を十分に享受することができますし、売買時に必要となる手数料を頻繁に支払わなくても済みます。

とはいえ、何十年も資産をそのまま動かさない長期投資は、シニアにとって難しいものです。専門家のアドバイスを得ながら、できれば数年は動かさないと決め、自分で決めた期限が過ぎても「まだやめなくても大丈夫」と思えるようなら、より長期での投資を選びましょう。

分散運用でリスクを回避する

分散運用も退職金を扱う大事なポイントです。投資先を一つ決めたらそこへ全額つぎ込むのではなく、少しだけ預けて様子を見るとか、複数の金融機関に少額ずつ預けてリターンの大小を観察するなど、分散型の投資をしましょう。

一ヶ所に全てをつぎ込むと、大きな損害を被るリスクが大きくなります。

退職金の運用方法

退職金の運用方法としては、主に以下の3つが考えられます。

投資信託

投資信託とは、少額から始められる資産運用の一つです。多数の投資家が金融機関に預けたお金を、一つの大きな資産として投資の専門家が運用し、成果を投資額に応じて分配するシステムをいいます。

自分で投資対象を選ぶのではなく、運用のプロが将来性に鑑みて選んでくれるため、失敗が少ないのがメリットです。ただ、少額で始められる分、当然ながら分配される成果もあまり大きくありません。ローリスク・ローリターンの代表的な投資先といえるでしょう。

投資信託を行う際には、商品の特徴をよく知り、手数料など他にかかる費用についても納得の上で選びましょう。

株式投資

自分で投資対象の株式を選び、売買管理が必要な株式投資は、投資の初心者向けとはいえません。しかし、応援したい企業や将来性を感じる会社があるなら、少額から始めるのもいいでしょう。シニアの生活に張りが出ますし、企業によっては株主優待としてお得なサービスを受けられることもあります。

株の売買をするには、証券会社の口座開設が必要になります。老舗の証券会社から、ネットで便利に売買できるネット証券までさまざまです。信頼できるところを選びましょう。

退職金用の定期預金

退職金用の定期預金口座を開設するのも、立派な運用になります。なぜなら、各金融機関で退職金の専用定期商品を扱っており、通常の金利よりもずっとお得なことが多いためです。投資信託や株式を始めたいけれど、どこにしようか迷っているときには、ひとまず退職金の専用定期に預けるのがよいでしょう。期日まで基本的に引出しができませんので、預ける期間は十分に確認しましょう。

老後の資産運用の相談先

銀行・保険会社・証券会社などの金融機関

預金や投資信託の形で投資を行うなら、長く預貯金を預けている銀行などに、ひとまずは相談してみるのがおすすめです。とくにずっとお世話になっている係員がいるなら安心でしょう。相談の場で即決はせず、さまざまな銀行をまわって比較してから決めるのがポイントです。

また、保険商品を検討している場合は保険会社に、株式投資を検討するなら証券会社に相談しましょう。どれにしようか迷っている場合は、一番興味を惹かれているものから相談に行くことを推奨します。

ファイナンシャルプランナー・独立系ファイナンシャルアドバイザー

FPとも称されるファイナンシャルプランナーは、保険や投資をはじめ、ローンや老後、相続についてまで相談に乗ってくれる、お金のエキスパートです。ひとつの保険会社や銀行に属していない独立系ファイナンシャルアドバイザー(IFA)であれば、さまざまな会社の商品の中から、その人に合ったものを紹介してくれます。また、例えば家計の見直しなど、投資以外のことについても相談に乗ってくれます。

退職金は無理のない分散型の運用を

まとまったお金が入ると、果たしてどのような運用をしようか迷ってしまうことでしょう。退職金の運用が資産運用のデビューとなる人も少なくありません。大きな失敗をすると後の人生に大きな損失をもたらしてしまうので、必ず慎重になりましょう。ポイントは、「無理をしない」「分散する」こと。どのくらいなら「無理をしていない」といえるのか?と疑問に思うなら、これからのマネープランを専門家と一緒に練ってみましょう。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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