近年、従来の退職金制度を見直し、外部の金融機関を利用した確定拠出年金に移行している企業が増えています。これには景気や金利の変化により、従来の退職金制度だけでは十分な退職金が確保できなくなってきたという背景があります。退職金も確定拠出年金も、老後の生活を大きく左右するものです。退職金と確定拠出年金のそれぞれの違いや、確定拠出年金の特徴、加入条件について把握しておきましょう。
確定拠出年金とは、企業型と個人型がありますが、どちらも簡単に言えば前もって準備しておく老後の備えで、公的年金に上乗せできる年金です。ですから加入条件は60歳未満(企業型は65歳未満)までで、年金として受け取るのは原則60歳以降となります。
どちらも税制面で優遇があり、運用益は非課税ですが、運用の成果によって将来受け取れる額が変わるものです。それぞれの特徴について簡単に説明します。
企業型確定拠出年金は、企業の退職金制度のひとつとして拡大してきた制度なので、基本的に掛け金は全額事業主が拠出、運用は加入者が行います。運営管理機関は、労使合意により会社によって決められているため、自分で自由に選ぶことができません。
以前は、企業型確定拠出年金に加入していた人は、個人型に加入できない縛りがありましたが、2017年の法改正により企業型と個人型の併用が可能になりました(ただし掛金の上限あり)。運用次第で、老後の生活保障をより安定したものにすることができます。
受け取り方法については、退職金のようにして受け取れる一時金と、年金のように分割で受け取る方法があります。
個人型は、個人で加入できる確定拠出年金で、iDeCo(イデコ)の名称で知られています。
以前は、企業年金がない会社員や自営業・フリーランスのみに加入が限られていましたが、2017年の法改正で60歳未満の人なら原則誰でも加入できるようになりました。企業年金、企業型確定拠出年金に加入している人はもちろん、専業主婦のような第3号被保険者でも加入できます。
ただし、公的年金の上乗せとして給付を受け取るので、公的年金(国民年金)未納の人は加入できません。受け取り方法については、退職金のようにして受け取れる一時金と、年金のように分割で受け取る方法があります。
退職金も確定拠出年金も、生活を支える資金になります。それぞれの違いについて解説しましょう。
項目 |
退職金 |
企業型確定拠出年金 |
個人型確定拠出年金 |
目的 |
退職後や老後の社会保障 |
退職金制度のひとつ。公的年金の上乗せ |
公的年金の上乗せ |
掛金の拠出 |
事業主 |
基本的に事業主(従業員が上乗せできる、マッチング拠出もあり) |
個人 |
運用 |
社内、あるいは社外で積み立てしたとしても、運用責任は事業主にある |
運用先は従業員が決められ、その責任は個人にある |
運用先は個人が決められ、その責任は個人にある |
給付 |
あらかじめ規定などにより定められている |
掛金と運用実績で変わってくる |
掛金と運用実績で変わってくる |
受け取る タイミング |
定年以外の退職でも受け取れる |
基本的に60歳以降 |
基本的に60歳以降 |
受け取り方 |
退職時まとめて |
一時金か、年金として定期的に受け取れる |
一時金か、年金として定期的に受け取れる |
税制上の 優遇措置 |
受給時、退職所得控除により所得税の優遇がある |
掛け金は非課税(給与とならない)。運用益は非課税。受給時、一時金で受け取れば、退職金として退職所得控除、年金で受け取れば雑所得として公的年金控除が受けられる
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掛け金は全額所得控除。運用益は非課税。一時金で受け取れば、退職金として退職所得控除、年金で受け取れば雑所得として公的年金控除が受けられる
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確定拠出年金は年金であるため、退職時に支給される退職金とは違い、基本的に60歳以降からではないと受け取れません。ただし、受け取り方はまとめて受け取る「一時金」と、年金として定期的に受け取る方法、もしくはその併用が選べます。それぞれのメリットとデメリットについて解説します。
一時金として一括で受け取る場合は、退職所得として扱われます。
退職所得は、勤続年数(=拠出した期間)が20年以上なら、収入から退職所得控除を引き、残った金額に1/2をかけた金額で求められます。
控除額は800万円+70万円×(勤続年数-20年)で求められます(勤続年数が20年以下の場合、40万円×勤続年数が控除額になります)。もし勤続年数が40年であれば、控除額は2,200万円になるので、つまり長く加入してきた人ほど控除額は高くなり、税制面のメリットが大きくなるのです。
一時金で受け取るメリットは、退職金の控除額は大きいので、税制面で有利になること。人によっては税金がかからないケースがあります。
一方、デメリットは、もともとの退職金が多く、給付金と合わせると金額が大きくなってしまう人は、税金が高くなります。また、一気に大きな金額が入ってくるため気が大きくなってしまい、本来は老後資金としてプールしておかなくてはならないものなのに、退職の記念として散財してしまうなど、のちのち資金繰りに困ってしまうケースもあります。
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年金として受け取る場合は、公的年金や企業年金などと合算して、雑所得として扱われます。
メリットとしては、分割して給付されるので無駄遣いすることなく計画的に使える点でしょう。
デメリットとしては、公的年金と合わせた金額が多くなると、所得税、住民税、社会保険料の金額が高くなってしまうケースがあります。
2017年の法改正により、従来は加入できなかった企業型確定拠出年金加入者、確定給付型の企業年金加入者、公務員、専業主婦にも門戸が開かれた、個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」。全額所得控除になるなど、税制面のメリットが大きいだけあって話題となっていますが、いくつか注意点があります。加入前に確認しておきましょう。
iDeCoは、自分が自分のために積み立てる私的年金です。老後のための資産形成が目的なので、基本的に加入者が60歳にならないと引き出せません。
ただし、加入者が60歳未満であっても、障害状態になった場合は「障害給付金」を一時金や年金で受け取ることができます。万一、死亡した場合は遺族に「死亡一時金」が支払われます。
iDeCoは、年金の積み立ての金額が苦しくなったら、掛金を減額することができます(月々の最低金額は5,000円)。ただし、金額の変更は年に1回までと限られています。
積み立てを一時中断することもできますが、中断の際は「加入者資格喪失届」を運営管理機関(銀行や証券会社などの金融機関)に提出しなくてはならず手続きが比較的面倒です。中断したとしても口座を維持する手数料は継続して発生するのも注意したい点です。
定期預金、投資信託、保険商品など数多くの商品から投資先を自分で選べるのがiDeCoの大きな魅力ですが、運用次第では元本割れになるケースもあります。
中には元本保証の金融商品もありますが、リターンは低く、投資としての魅力は欠けてしまいます。運営管理機関によって取り扱っている商品が違うので、加入前によく吟味しましょう。
投資の原則は、リスクを分散しながら長期間かけてコツコツ積み立てること。そうすることで元本割れのリスクを軽減できます。
定年まで勤めあげて受け取る退職金は、老後の大切な生活資金となります。しかし事業主側のコスト負担になることから、今後は退職金制度のない企業が増えてくるかもしれません。確定拠出年金は、運用次第では従来の退職金よりも将来受け取る分を増やすことができます。企業型に上乗せして個人型の加入が可能になったいま、老後の資金確保として前向きに検討してみましょう。