2023年9月16日
老後
【FP解説】親の介護にかかるお金がないときは?今から備える介護に向けた知っておくべきこと

「親の介護にかかるお金がない」と不安に思っている人は、要介護となった場合どのくらいお金がかかるのか、何年その金額が必要になるのかが知りたいことでしょう。実際には、介護がどのくらい必要になるかは個人差がありますが、平均的な費用を確認し、備えておくことは可能です。親の介護にかかる費用と、利用できる介護サービスの制度などを説明したうえで、介護に関するお金以外の注意点を解説します。

親の介護にかかるお金

公益財団法人生命文化保険センターによる「平成30年度生命保険に関する全国実態調査」を参照すると、毎月の介護にかかる費用平均は7万8000円となっています。在宅介護の平均月額は4万6000円、施設介護の場合は11万8000円と、介護施設入居者の方がかなり多めになっています。

なお、介護期間の平均は54.5ヶ月。4年7か月の間、7万8000円の費用がかかると計算すると、介護費用の総額は、429万円です。また、介護に関わるリフォームなど一時的な費用として、平均69万円がかかるという結果になっています。介護が始まってから亡くなるまで、500万円ほどの出費があるということです。

もちろん、平均値がそのまま誰もに当てはまるとはいえません。脳や心臓、肺の疾患であっという間に亡くなってしまう人もいれば、ガンで長い入院生活の末に亡くなる人もいます。一方で、10年を超える介護生活の後に亡くなる人もいます。

どのくらい介護にお金がかかるか不確定ななかで、子世代には何ができるのでしょうか。次項から解説していきます。

親の介護に利用できる制度

まずは、親の介護のために利用できる制度を確認しておきましょう。一般的なところでは、以下の5点が挙げられます。

介護保険制度

要介護あるいは要支援認定を受けることで、1割から3割の自己負担額で介護保険サービスを受けられる制度です。自己負担の割合は所得によって違いますが、本人の所得を基準とするため約9割の人が1割負担となります。

介護サービスの内容は、訪問介護や通所介護などの居宅サービス、特養や老健といった老人福祉施設に入居する施設サービス、介護ベッドや車椅子、つえなど福祉用具の貸与、バリアフリーへの住宅改修費などがあります。介護度やサービス内容により上限額が決まっていて、上限を超える分は10割が自己負担となります。

なお、おむつ等の消耗品や、保険対象外の福祉用具については、介護保険制度は使えません。

高額介護サービス費

一ヶ月に支払った利用者負担額の合計が限度額を超えた場合、申請により超過分が払い戻される制度です。一般的な所得の人の負担限度額は、月額4万4000円です。所得が高くなると、負担上限額が大きくなります。また、保険外の負担額については、利用することができません。

参考:「令和3年8月利用分から高額介護サービス費の負担限度額が見直されます」(厚労省)

高額介護合算療養制度

介護費と医療費の合計自己負担額が基準額を超えた場合、超過分が払い戻されます。75歳以上の後期高齢者医療保険対象者は、それ以外の世代よりも基準額が低く設定されています。一般的な所得の後期高齢者の負担限度額は、年額56万円です。

介護休業制度

要介護状態の家族を介護するために会社を休むとき、対象家族1人に月3回まで、通算93日まで休業できる制度です。休業中は、賃金の67%の介護休業給付金が支給されます。利用するには対象家族や雇用状態の要件をクリアする必要があります。

介護休暇制度

要介護状態の家族を介護するために会社を休むとき、対象家族1人につき年5日まで、1日または時間単位で休暇を取得できる制度です。ただし、有給か無給かは、会社の規定によります。利用するには対象家族や雇用状態の要件をクリアする必要があります。

ほか、所得の状態や会社の制度により、違うサービスや制度が受けられる可能性があります。市区町村の窓口や勤務している会社の総務部などへ、個別に確認してみましょう。

親の介護に備えること

制度を知ることに加え、親の介護に備えるべき3つのことを解説します。

地域包括支援センターに相談しておく

介護が生じる前から、家族の心配事について相談できるのが地域包括支援センターです。地域に住む高齢者が安心して暮らせるように、介護予防についての相談から受け付けています。保健師、社会福祉士、主任ケアマネージャーが配置されているため、「一人暮らしの親が心配」「親が倒れたらどこに相談すればいい?」といった相談をしておくと、実際に介護が生じたとき、スムーズに対応してもらえます。

近くの介護施設について情報を把握しておく

介護施設にはさまざまな種類があり、施設によって入居できる介護度や利用料は違います。例えば「老健」と呼ばれる介護老人保健施設はリハビリのための施設であり、回復し家に戻ることを目的とするため永住はできません。近くの介護施設の入居条件や料金を把握しておきましょう。

親の貯蓄額や年金額を知っておく

親の介護費用を、なるべく親の年金や貯金から出してもらいたいと考えている人はとくに、親の貯蓄額や年金額を知っておきましょう。また、認知症介護などになると、親の財布の管理も必要です。通帳のありかなどについても把握しておきましょう。

親の介護をするときの注意点

ここからは、お金のことに限らず、親の介護をするときの注意点について解説します。

介護離職はなるべく避ける

近年、親の介護をするために実家へ戻るといった「介護離職」の増加が問題になっています。親の面倒を近くでみてあげたいという気持ちは大事なものですが、介護離職をしてしまうと、収入が激減する可能性が高いうえ、介護費用が生じて家計は困窮します。

駆けつけたい気持ちを抑え、介護休暇や介護休業といった制度を上手に利用して、介護を理由に離職することはなるべく避けましょう。介護休業中に、地域包括ケアシステムと連携して遠隔介護の体制を整えるのが理想的です。

自分の負担を軽減することを第一に考える

もともと働いていない主婦などは、「自分は働いていないのだから、親の介護をするのがつとめ」と頑張ってしまいがちです。しかし、介護度によっては24時間付きっきりの状態が長期間続きます。自分が介護をすることで経済的な負担は最小限になっても、身体的、精神的な負担が積み重なり、心身ともに疲れてしまう人も多いのが現実です。

居宅サービスを限度額まで利用してリフレッシュの時間を設ける、有料サービスを増やす分、働きに出るなどして、なるべく負担を減らしましょう。それによってストレスなく親に接することができるようになります。あまりに負担が大きい場合は、施設への入居を視野に入れることも大事です。

孫に過度な負担をかけない

近年、「ヤングケアラー」が問題化されています。ヤングケアラーとは、介護が必要な祖父母や障害のある家族の世話を日常的に行う18歳未満の子どもを指します。子どもの本分は、自分の将来のために勉学に励んだり、好きなことに一生懸命取り組んだりすることのはずですが、そのための時間が家族の世話に使われてしまっています。

家事や仕事に忙しい世代は、ついつい「おばあちゃんの介護を手伝って」などと孫世代に頼んでしまいがちです。しかし、過度に孫世代へ負担をかけると、孫本人の将来を潰してしまう恐れがあります。

まとめ

親に介護が必要になるかどうかは、誰にもわかりません。必要な準備を行ったうえで、いざというときには様子を見ながら介護を行っていくしかありません。そんななかで、親の介護にお金がかかり、どうしても資金繰りが厳しいということになったら、リバースモーゲージやリースバックといった、家を活用した資金調達を検討してみましょう。

リバースモーゲージは、高齢者が自宅を担保に借り入れを行う資金調達法で、契約者の死後、相続人が家を売却するなどの方法で元金返済を行います。毎月の返済は利息のみです。一方で、リースバックは家を売却した後も家賃を支払いながら住み慣れた我が家で暮らす仕組みです。最も大きな資金調達のもととなる「家」を視野に入れながら、親の介護費用について考えていきましょう。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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