2023年10月7日
老後
【FP解説】退職金のもらい方は「一時金」と「年金」のどちらが良いのか?それぞれを詳しく解説

退職金のもらい方には、いくつかパターンがあります。全額、あるいはある程度の金額をまとめてもらうのが一時金型で、全額、あるいは一時金で支払った後の残額を、毎年少しずつ受け取るのが年金型です。年金型の方が受取額は多くなる可能性があるものの、所得税など税金面でみると、一時金の方がお得な場合が少なくありません。いったいどちらがよいのでしょうか。それぞれの方法について詳しく解説します。

退職金を一時金としてもらう

退職金を全て一時金としてもらう際のメリットとデメリットを解説します。

退職金を全て一時金としてもらうメリット

退職金を一時金としてもらう場合、メリットは、税負担が軽くなることです。一時金としてもらう退職金は「退職所得」とされ、税制上優遇されているためです。一般に、退職所得の金額は、「(収入金額-退職所得控除額)×1/2」と計算します。退職所得控除額は、勤続年数が長いほど増えます。

【退職所得控除額計算表】

勤続年数(A

退職所得控除額

20年以下

40万円×A80万円に満たない場合には80万円)

20年超

800万円+70万円×(A20年)

例えば、勤続30年のAさんが、退職金2000万円を一括で一時金としてもらった場合、課税対象となる所得金額は、以下の通りです。

2000万円-(800万円+70万円×(30年-20年)×1/2=250万円

このように、対象金2000万円を受け取るにあたり、所得税の課税対象となるのは250万円です。また、退職所得は原則として他の所得と分離して計算するため、退職所得額が社会保険料に影響することはありません。

参考:No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)(国税庁)

退職金を全て一時金としてもらうデメリット

一時金型のデメリットは、年金型に比べて受取総額が少なくなる点です。年金型の場合は、まだ受け取っていない退職金を金融機関側が運用するため、受取額が増えるのが一般的です。一時金としてもらうとしたら2000万円という人は、年金型を選べば、利率によっては数百万円の単位で受取額が跳ね上がる可能性があります。

退職金を年金としもらう

次に、退職金を年金としもらう場合のメリットとデメリットを解説します。

退職金を年金としてもらうメリット

退職金を年金としてもらう場合、メリットは受取総額がアップすることです。前項でも説明した通り、退職金の運用益が上乗せされるためです。長期での受け取りを選ぶほど、受取総額がアップする可能性は高まります。

退職金を年金としてもらうデメリット

退職金を年金としてもらう場合、税負担額が高くなる恐れがあります。一時金として支払われる退職金であれば、退職所得として税制上の優遇措置がありますが、年金型にはそれがありません。毎年受け取る年金額は、そのまま雑収入として計上されるため、公的年金やパート・アルバイト代など他の収入との合計所得が跳ね上がり、税金や社会保険料が高くなる可能性があります。

退職金を一時金と年金で組み合わせてもらう

退職金を一時金と年金で組み合わせてもらう場合には、受取総額と税負担のバランスをよく見てもらうのが重要です。うまく組み合わせられれば税負担が減りますが、バランスを欠いた受け取り方にしてしまうと、受取総額があまり増えないのに税負担高だけが大きくなるということになりがちです。慎重に計算しましょう。

退職金のもらい方の注意点

以上を踏まえ、退職金をもらうときには、以下の3つに注意しましょう。

今後の働き方によって受け取り方を検討する

退職後、どのように働くかによって、有利な受け取り方は違います。もし「もう働く気はない」というのであれば、年金型にしても税負担がかなり大きくなることは避けられます。所得が小さければ小さいほど、税負担は軽くなるためです。

また、厚生年金に加入しながら働き続けるという人も、年金型による税負担の増大をそう心配する必要はありません。これまで通り、社会保険料の半額を会社が負担してくれるためです。

「自営として独立する」「厚生年金に加入せず、パートやアルバイトでたまに働く」という人は、なるべく一時金でもらうことを推奨します。稼げば稼ぐほど老後の不安はなくなりますが、年金型を選ぶと、常に退職金が年間所得に上乗せされるため、税負担が重くなります。

税負担が増えないような工夫をする

受取総額を多くしたいと年金型を選ぶ場合には、税負担があまり重くならないような工夫をしましょう。例えば、通常であれば65歳からもらえるようになる公的年金は、受取開始時期を遅らせる繰り下げ受給制度があります。企業年金をもらえる間は公的年金を受給せず、所得額を減らして税負担を軽くするという方法で節税できます。また、繰り下げ受給を選択すると、将来もらえる年金額が増額されます。

将来不安が大きいなら一時金がおすすめ

「いくらもらえる金額が多くなるといっても、運用益がどれだけ出るかわからない」「税制度の改正で税率アップする可能性もある」など、将来に不安を感じている人は、「もらえるときに、もらえるだけもらう」という考え方で一時金を選択するのもいいでしょう。ただ、一時的にまとまった金額が手に入るので財布のひもが緩むかもしれません。計画して使いましょう。

まとめ

退職金のもらい方には3パターンがあり、どれであってもメリット、デメリットの双方があります。それぞれのメリット、デメリットを引き比べて、自分の性格や将来の見通し、これからの働き方などに沿った方法を選びましょう。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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