2022年11月12日
老後
【FP解説】親が認知症になったときのお金の管理方法や成年後見制度についてわかりやすく解説

親が認知症になったとき、生活全般について気をつけるべきことは増えますが、その一つにお金の管理があります。ただでさえ高齢者は詐欺被害など金銭トラブルに巻き込まれる可能性が高くなりますが、本人の判断能力が低下することにより、さらに困りごとが増えるかもしれません。具体的にどんなトラブルがあるのか、また家族が疲弊しないよう、成年後見制度を使って適切に金銭管理をする方法などについてわかりやすく解説します。

親が認知症になった場合のお金のトラブル

親が認知症になったとき、どのようなお金のトラブルが考えられるでしょうか。主に次の5つがあります。

金銭管理ができない

判断能力が衰えることにより、本来家計に充てるべきお金を使い込んでしまったり、急に大きな買い物をしたりと、金銭管理ができなくなることが考えられます。また、スーパーで品物を選びレジに並んだものの、財布の中の現金が足りないことに気づかない、正しく支払うことができない、といった悩みごとはよくあるケースです。

詐欺被害に遭う

高齢者狙いの悪徳商法、電話詐欺などによる被害は年々増加しています。例えば、急な訪問をし、生活の相談に応じるふりをして法外に高い品物を売りつけるといった商法があります。認知能力が正常なうちであれば拒否することができても、認知症になるときちんと判断できず、家族の誰にも相談せずに買ってしまうといったことが考えられます。

通帳や印鑑を管理できない

通帳や印鑑をきちんと管理できず、紛失してしまう恐れもあります。また口座管理のための暗証番号を忘れてしまうと、現金の引き出しができなくなり困ってしまいます。暗証番号の更新など本人が銀行の手続きがうまくできないときは、家族が代理で預金の引き出しをすることになりますが、本人でないと応じてくれない金融機関がほとんどです。

お金を「盗られた」と親族や他人を疑う

実際はお金が減っていなくても、本人は「減ってしまった」と思い込み、「お金を盗ったのではないか」と家族や他の人を疑うケースもみられます。家の雰囲気が悪くなるうえ、通帳や印鑑を誰にも見つからない場所に隠そうとするあまり、本人も隠し場所がわからなくなってしまう恐れがあります。また、出入りのヘルパーなどに疑いがかかると、本人がそのヘルパーの出入りを拒むことで、介護サービスを受けることが困難になります。

金銭管理をする家族と、ほかの親族の間でもめ事が起こる

本人の子や家族が、やむなく本人の家計や通帳を管理することもあります。しかし、きちんと家計簿をつける、突発的な出費はレシートを保管しておくなどの管理を怠ると、ほかの親族から「本人が認知症なのをいいことに、家族が本人のお金を使い込んでいるのでは」などといった疑いがかけられることがあります。親族間での金銭トラブルは、関係性に大きな溝を残します。

親が認知症になった場合の成年後見制度

親が認知症になった場合には、適切な金銭管理のためにも成年後見制度を活用するのがよいです。以下、成年後見制度の内容や手続きの流れ、注意点等を解説します。

成年後見制度とは

成年後見制度とは、認知症のほかに精神障害や知的障害などの理由で判断能力が不十分な本人に代わり、後見人が財産管理や各種契約の締結をサポートする制度です。法定後見制度と任意後見制度の2種類があり、それぞれ、次のように違います。

  • 法定後見制度

本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所によって選任された成年後見人などが、本人のサポートを行う制度です。家庭裁判所が事情を総合的に検討し、後見人等を選任します。法定後見には判断能力のレベルに従い「後見」「補佐」「補助」の3つがあり、どのレベルに当てはまるかも家庭裁判所が決定します。

  • 任意後見制度

本人の判断能力が十分あるうちに、将来のために後見契約を結ぶ制度です。後見人は本人が選出できますが、任意後見監督人は家庭裁判所が選任します。どの範囲までが後見に及ぶかは、任意後見契約書で定めた範囲とされます。
認知症の場合で具体的に考えれば、認知症になった後に利用できるのが法定後見制度、認知症になる前に利用できるのが任意後見制度であるといえます。

成年後見制度の手続きの流れ

成年後見制度の手続きは、以下の通りです。

【法定後見制度の場合】

1. 申し立てをする裁判所を確認する
申し立てをする裁判所は、本人の住民票上の住所地を管轄する家庭裁判所です。

2. 申し立てに必要な書類を準備する
成年後見制度の申し立てに提出する書類の主なものは、以下の通りです。各家庭裁判所や事情により、追加書類を求められることがあります。

  • 申立書
  • 診断書
  • 本人の戸籍謄本
  • 申立手数料(1件につき800円分の収入印紙)
  • 登記手数料(2,600円分の収入印紙)
  • 郵便切手

申し立てに必要な書類は、以下の裁判所のサイトからダウンロードできます。
https://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/kokensite/moushitate_seinenkouken/index.html

3. 裁判所に面接予約をする
管轄の家庭裁判所に電話で面接予約を行います。

4. 裁判所に書類を郵送する
あらかじめ、書類と収入印紙、郵便切手を申立先の家庭裁判所へ郵送しておきます。

5. 予約した日時に裁判所へ行く
本人の様子や事情などを面接で確認し、調査が行われます。後日、審判が行われ、任意後見制度が利用できるようになります。

【任意後見制度の場合】

1. 後見人の選定
まずは、認知症となったときに任意後見人となる人を決めます。成人であれば、親族、友人など誰でも任意後見人になることができます。

2. 契約書の締結
金銭管理や病気・介護のときの対応など、後見人に行ってもらう内容を決定し、契約書を締結します。契約は公正証書で作成します。契約内容を公証役場に持ち込み、公正証書を作成しましょう。

3. 任意後見監督人選任の申し立て
認知症になったら、本人の居住地を管轄する家庭裁判所へ出向き、任意後見監督人選任の申し立てを行います。申し立てができるのは、本人と4親等内の親族のほか、任意後見人となる人です。任意後見監督人とは、任意後見人がきちんと契約を履行しているかを監督する役割を持つ人で、弁護士や司法書士など士業の専門職が選任されます。

申し立てに必要な書類の書式については、以下の裁判所のサイトよりダウンロードできます。 https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_04/index.html

認知症が原因で成年後見制度を利用した場合は、病気の性質上、本人が亡くなるまで後見人がサポートを続けることとなります。

成年後見制度の注意点

成年後見制度において最も注意すべき点は、認知症になってしまった後では、任意後見制度は選べず、法定後見制度を利用するしかなくなるということです。

「認知症になるかもしれないから、任意後見制度を利用して契約を締結しておこう」と考える人は少ないかもしれません。しかし、法定後見制度においては、後見人等を選ぶのは家庭裁判所であり、本人や家族が選ぶことはできません。また、サポートの範囲を選ぶこともできません。

特定の人に財産管理をしてもらいたい、支援の範囲をあらかじめ決めておきたいと思うのであれば、任意後見制度の利用を考えてみましょう。

後見制度支援預金と後見制度支援信託

後見制度には、後見制度支援預金と後見制度支援信託という仕組みがあります。いずれも、本人の財産を保護する仕組みです。

後見制度支援預金とは、本人の財産のうち日常的な支払いをするのに十分な金銭を後見人が管理し、その他の金銭を後見制度支援預金口座に預けておくものです。入出金の際には裁判所の発行する指示書が必要になるため、財産保護を確実に行うことができます。

一方で後見制度支援信託とは、信託銀行等の利用によって後見制度支援預金と同様に本人の財産を守る仕組みです。生活費など、日常的な支出のためのお金については、あらかじめ家庭裁判所との間で決めた一定の金額が、定期的に後見人が管理する口座へ振り込まれます。

成年後見制度は便利な反面、後見人によるお金の使い込みが心配になることもあります。以上のような預金や信託の仕組みを覚えておくと便利です。

親が認知症になった場合のお金の管理方法

成年後見制度を使わない場合、親が認知症になったときにはどのようなお金の管理方法があるのでしょうか。以下の3つが考えられます。

買い物や預金引き出しに同行する

最もシンプルで本人の気分を害しにくいのが、本人の買い物や預金の引き出しに同行することです。本人が現在いくら現金を持っているのか・使い道は何かをきちんと把握できる、確実な方法です。ただ、同居していない人にはなかなか難しいでしょう。同居していても、日中働いている子世代には現実的でないかもしれません。

買い物付き添い、代行サービスを利用する

介護事業者等が買い物の付き添いや代行サービスを行っています。保険外サービスである場合が多いためお金はかかりますが、日中忙しい子世代にとっては安心できるサービスです。親が住む地域の介護事業者が該当のザービスを展開していないか、調べてみましょう。

資産承継のための信託サービスを使う

各金融機関が、介護や認知症の対策をするための信託サービスを行っています。本人のほか、あらかじめ指定された家族が引き出しを行うことができたり、本人の引き出しを制限できたりするサービスです。家族としては安心できるサービスですが、利用の際には、本人とよく話し合い、納得してもらう必要があるでしょう。本人に認知症の自覚がないと、説得が難しいかもしれません。

親が認知症になった場合のお金を管理するときの注意点

成年後見制度を使わない場合、親が認知症になったら、お金の管理の点で以下のことに気をつけましょう。

親族間でお金の管理のルールを共有しておく

家族のうちの一人が認知症の親のお金を管理する場合には、親族間でお金の管理のルールを共有しておきましょう。親が亡くなったときに相続人となる人の範囲内には、詳しく知らせておくことが重要です。管理者が「親の金を使い込んだのでは」などと疑いを持たれることのないようにしましょう。

詳細な記録を残す

本人や相続人から「どんなお金を、いつ、どこで使ったのか」と質問されたときにきちんと答えられるよう、レシートなどは必ず保管しておき、通帳や財布の中の現金と数字を合わせておきます。

資産の全体把握

本人が、家族の知らない通帳を持っていたり、クレジットカードを持っていたりしたら、家族によるお金の管理は難しくなります。親の資産の全体を把握しておきましょう。

まとめ

以上のように、認知症の親のお金を管理することは、想像以上に大変です。まずは、後見制度や銀行の信託など、第三者が関わる仕組み理解することが大切でしょう。必要に応じて適切な制度を利用し、大事な資産を守りましょう。

奥山晶子

リバースモーゲージ商品を見る
ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
金融機関を探す