2022年11月12日
老後
【FP解説】高年齢雇用継続給付金の給与の低下率に賞与は含まれる?老齢厚生年金の停止額も

60歳になり定年を迎えた後、同じ企業に再雇用される人や65歳まで定年延長となる人が増えてきました。しかし、再雇用後、一般的には賃金の支給額が下がる傾向にあり、その低下率は大きく、5割減というケースも珍しくありません。自身がどれほどの年収を保てるのか理解するための知識として、定年後の給与減をサポートする高年齢雇用継続給付金と、老齢厚生年金の支給額を解説します。

高年齢雇用継続給付と老齢厚生年金

まずは、高年齢雇用継続給付と老齢厚生年金について、概要を解説します。

高年齢雇用継続給付とは

高年齢雇用継続給付とは、60歳のときの給与に比べて各月の給与が75%未満に低下した場合、低下率に応じて支給される給付金です。賞与は含まれませんので、賞与が減額されたとしても、この給付金によるサポートはありません。

高年齢雇用継続給付の対象となるのは、60歳以上65歳未満の人です。65歳を過ぎて再雇用されても、この制度は使えません。また、年齢が対象内であっても、各月の給料が36万584円以上ある場合は支給されません(令和3年8月からの支給限度額。支給限度額は毎年8月1日に変更される場合があります)。支給される金額の上限は、60歳以降の給料の15%です。

老齢厚生年金とは

老齢厚生年金とは、厚生年金の加入者が65歳になったときに、老齢基礎年金に上乗せで支給される年金をいいます。ただし、以下の全ての資格を満たしていれば、65歳になるまで「特別支給の老齢厚生年金」を受け取ることができます。

  • 老齢基礎年金を受け取るために必要な資格期間(10年)を満たしている
  • 厚生年金保険の加入期間(共済組合加入分も含む)が1年以上ある
  • 受給開始年齢に達している(昭和28年(女性は昭和33年)4月2日以降に生まれた人は、請求することにより、老齢厚生年金を繰り上げ受給できる)

よって条件をクリアすれば、65歳未満であっても「特別支給の老齢厚生年金」を希望することで年金受給できますが、高年齢雇用継続給付を受給している人は、給付額に応じて一部の額が支給停止となります。

つまり、定年後給与が減った場合、高年齢雇用継続給付も、特別支給の老齢厚生年金も、どちらも満額で受けられるということにはなりません。高年齢雇用継続給付の手続きをした方がよいのか、特別支給の老齢厚生年金を選ぶべきかは、個々人の給与や事情に応じて考えることになります。

高年齢雇用継続給付の計算方法

高年齢雇用継続給付の計算方法は、以下の通りです。給与の減額率に応じて、支給率が変わります。

現在の給料の60歳時の給料に対する割合

高年齢雇用継続給付の60歳以降(現在)の賃金に対する支給率

75%以上

0%

74%

0.88%

73%

1.79%

72%

2.72%

71%

3.68%

70%

4.67%

69%

5.68%

68%

6.73%

67%

7.80%

66%

8.91%

65%

10.05%

64%

11.23%

63%

12.45%

62%

13.70%

61%以下

15.00%

【実際の給与の計算例】
Aさんは、60歳になる前までは月給40万円、ボーナスはおよそ半期で80万円をもらっていました。60歳以降、再雇用契約が結ばれて契約社員になり、月給は24万8,000円、ボーナスなしとなりました。そこで高年齢雇用継続給付を利用することにしました。

【60歳までの年収】
40万円×12ヶ月+80万円×2回=640万円

【再雇用後の年収】
再雇用後の月給は、60歳になるまでの月給の62%です。表を確認すると、62%の場合は、現在の月給の13.70%が給付されます。つまり、Aさんの60歳以降の年収は、以下のようになります。
(24万8,000円+(24万8,000円×13.70%))×12ヶ月=338万3,712円

このように、公的な支給があっても、年収は半分に近い額まで減ってしまうことになります。

老齢厚生年金の支給停止額の計算方法

60歳から65歳までの人が利用できる特別支給の老齢厚生年金の金額は、生年月日などに応じて、報酬比例部分と定額部分、加給年金額を合計した金額が受給できます。しかし、高年齢雇用継続給付を受ける場合、支給率に応じて老齢厚生年金の額が一部支給停止になりますから、注意が必要です。

【特別支給の老齢厚生年金の支給停止割合】

現在の給料の60歳時の給料に対する割合

特別支給の老齢厚生年金の支給停止割合(賃金(標準報酬月額)に対して)

75%以上

0%

74%

0.35%

73%

0.72%

72%

1.09%

71%

1.47%

70%

1.87%

69%

2.27%

68%

2.69%

67%

3.12%

66%

3.56%

65%

4.02%

64%

4.49%

63%

4.98%

62%

5.48%

61%以下

6.00%

つまり、先ほどのAさんの場合、再雇用後の月給は60歳になるまでの月給の62%ですから、年金を受けてもそのうち現在の給与の5.48%に当たる金額は減額されてしまうことになります。金額にして、1万3,590円です。

さらに70歳未満の人が働きながら年金を受け取るときには「在職老齢年金」の計算方法が適用され、元々の年金額から減額されてしまいますので、これについても気をつけなければいけません。

【在職老齢年金の概要】

  • 総報酬月額相当額(月給に直近1年間の賞与を12で割った額を足した金額)と老齢厚生年金の基本月額(年金月額から、加給年金額を除いたもの)の合計が28万円を上回る場合は、年金額が一部停止されます。
  • 総報酬月額相当額が47万円を超える場合は、さらに総報酬月額相当額が増加した分だけ年金を支給停止します。

在職老齢年金の具体的な計算式については、以下のページに詳しく記載されています。

60歳台前半(60歳から65歳未満)の在職老齢年金の計算方法(日本年金機構)

60歳以上で働く場合の収入

ここで、先にご紹介したAさんの給与をもとに、給与と公的サポートの合計額についてトータル・シミュレーションしておきましょう。

Aさん
60歳になるまで:月給40万円   ボーナス年額160万円

再雇用後はボーナスがなくなり、特別支給の老齢厚生年金の月額を10万円(年間120万円)とすると、再雇用後の給与額によって、各受給金額は以下のように変わります。

再雇用後の給与額

高年齢雇用継続給付の支給額

在職老齢年金額

特別支給の老齢厚生年金の
支給停止割合

月々の収入

(給与+高年齢雇用継続給付金+在職老齢年金-
支給停止額)

40万円

0円

0円

0円

40万円

35万円

0円

1万5,000

0円

36万5,000

30万円

0円

4万円

0円

34万円

24万8,000

3万3,976

6万6,000

1万3,590

33万4,386

20万円

3万円

9万円

1万2,000

30万8,000

以上のように、例え月給が半額になったとしても、給付金と年金をフル活用すれば、かなり年収が底上げされることがわかります。ただし、ボーナスの支給がありませんから、やはり収入は激減することに変わりはありません。定年前から再雇用後の収入についてシミュレーションし、生活水準をなるべく下げる努力をすることが大事です。

まとめ

再雇用後の生活を考えるなら、給与額について今のうちに計算し、受けられるサポートについてなるべく広範囲に詳しく調べておきましょう。あまりに年収が下がり、生活できないと感じたら、早めに転職や独立に向けて動いておくのが重要です。また、自分の資産を総ざらいし、活用できる不動産等がないかを検討するのもおすすめです。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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