2022年11月12日
老後
【FP解説】60歳の定年後の生活に必要なことは?65歳や70歳の定年との違いや注意点も

日本では長く60歳を定年としてきましたが、最近では65歳までの再雇用を利用する会社が増え、定年延長がだんだん当たり前になってきました。人生100年時代に60歳で年金生活に入ることは、もはや「アーリーリタイヤ」とすらいえるかもしれません。60歳を定年とし、以後は年金暮らしを選ぶ場合、資産はどのくらい必要になるのでしょうか。60歳での定年後の生活資金や、65歳、70歳での定年との違いを解説します。

60歳の定年後の生活に必要なこと

60歳で定年を迎え、退職するとしたら、以下のようなことが必要になってきます。

保険の手続き

健康保険証を会社に返却し、国民健康保険への切り替えを行います。退職後、14日以内に市区町村役場の担当窓口へ出向きましょう。

失業給付の受給手続き

定年退職であっても、失業給付を受けられます。ハローワークに離職票を持参し、求職を申し込むことで失業認定を受けます。ただし、給付を受けるためには、毎月指定された日にハローワークへ行かなければなりません。

年金手続き

60歳から年金受給をしたい場合には、年金事務所等で年金の請求手続きを行います。これを、年金の繰り上げ受給といいます。一般的には65歳から年金の受給が始まりますが、60歳から64歳までの間は、請求を行えば繰り上げ受給を選択できます。ただし、受給額は減額されます。

住み替えやリフォーム

老後、足腰が弱くなったときのために、また住居の老朽化を防ぐために、自分たちの住む家について考えるべき時期です。住み替えを検討するのであれば、どんな家がよいかを検討しましょう。

住み替えを希望するのであれば、将来、必要な介護サービスが受けられる「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」など、様々な選択肢があります。高額な入居金を支払うケースもありますが、老朽化が進む我が家を手放して売却益を得、住み替えを行うと行った資金調達法があります。

「今の家にずっと住み続けたい」と願うのであれば、バリアフリー対応のためのリフォームや、老朽化したところのメンテナンスが必要です。また、将来修繕が必要になったときのために、資金を残しておく必要もあります。

老後の生活の組み立て

仕事熱心に過ごしてきた人ほど、老後の生きがいを見失いかねません。定年後はどんな生活になるのか、休日等を利用してシミュレーションし、生活の組み立てについてある程度考えておきましょう。料理や掃除、洗濯の技術を覚えておけば、家事の助けになりますし、配偶者の急な外出時にも困ることがありません。

また、日中の過ごし方についても考えておきましょう。新しく趣味を始めてもいいですし、ボランティア活動に精を出すのも素晴らしいことです。

老後資金の準備

60歳で定年を迎え、後は働かないと決めたなら、老後資金を準備しなければなりません。老後資金について、詳しくは次章で解説します。

60歳の定年後の生活に必要な老後資金

60歳で定年を迎えるとすると、どのくらいの老後資金が必要なのでしょうか。
総務省の家計調査報告(令和2年)によると、65歳以上の夫婦のみで構成される無職世帯の一ヶ月の支出(生活費等の消費支出と、税金等の非消費支出を合わせた金額)の平均値は、25万5,550円です。これに対し、社会保障給付の月額平均値は21万9,976円ですから、年金を受給していても毎月3万5,000円ほどが赤字になります。

このように、公的年金だけに頼る生活においては、資産を取り崩していかざるを得なくなります。また、60歳からを「老後」とする場合、年金の繰り上げ受給は受給額が減額されるため、さらに生活は厳しくなる傾向にあります。

年金の減額率は、以下の通りです。

減額率=0.5%×繰り上げ請求付きから65歳に達する日の前月までの月数

仮に60歳から年金を請求すると、もらえる金額は30%も減額されます。もらえる年金額は年収や厚生年金への加入期間によって違いますが、単純に社会保障給付の月額平均値で計算すると、60歳から繰り上げ受給を行う人の給付平均額は以下の通りです。

21万9,976円×70%=15万3,983円

一方で、先に紹介したとおり、高齢者二人世帯の家計支出の平均値は25万5,550円です。つまり、60歳からを「老後」とすると、およそ10万円もの赤字を毎月補填しなければいけません。

夫婦ともに90歳まで生きる場合、60歳から90歳までおよそ30年間の年金生活が待っています。すると、必要な赤字補填分の合計額は、おおよそ以下のようになります。

10万円×12ヶ月×30年間=3,600万円

60歳の時点で、3,600万円の資産を準備しておかないと、安心した老後生活は営めません。

60歳65歳70歳の定年での差

定年を65歳、70歳まで延長することができれば、用意しなければならない資金は当然ながら減ることになります。どの程度まで減らせるのか、もらえる年金額はどうなるかを、モデルケースを使って表にしました。

【Aさんの場合】60歳から90歳までの合計額で計算。生活資金は月々25万5,550円、もらえる年金額は、満額で月々21万9,976円

定年の年齢

必要な生活資金【A

もらえる年金額【B

用意すべき資金額【A-B

60歳

9,199万8,000

5,543万3,880

(満額の70%)

3,656万4,120

65歳

7,666万5,000

6,599万2,800

(満額)

1,067万2,200

70歳

6,133万2,000

7,496万7,600

(満額の142%)

0円

以上のように、年金は65歳以上の繰り下げ受給を選ぶと、繰り下げた月数分、0.7%ずつ増額していくため、70歳0ヶ月まで繰り下げをすることで42%増額となります。

定年する年齢による注意点

以上を踏まえると、定年する年齢による注意点は3つです。

4,000万円を超えるような資産がある人は60歳リタイアも可能

自己資金と退職金を合わせて4,000万円を超えるようでしたら、60歳での定年退職も可能となります。ただ、それは平均的な生活を、延々と営める場合です。「退職金は全て旅行などの趣味につぎ込みたい」「退職後、家をリフォームしたい」「住み替えたい」といった希望がある場合には、もっと潤沢な資金が必要になってきます。

65歳リタイアを目指す人はコツコツ1,000万円貯めて

定年を延長して65歳まで働きたいという人は、老後のために1,000万円の貯金を目指しましょう。子どもが手を離れ、教育費がかからなくなれば、ぐっと貯金がしやすくなります。

貯金ゼロの人は70歳まで健康で働くことを目指して

あまり貯金がないという人は、とにかく健康を保ちましょう。そして、できる限り長く働き、年金の受給開始年齢を延長して受給額を増やします。70歳まで働くことができれば、年金額が生活に必要な額を上回る可能性が高くなります。

まとめ

以上、60歳で定年する際に必要なことをまとめました。必要なものは、何はともあれやはりお金です。老後のための資金で不安になることがないように、なるべく早いうちから用意を始めましょう。資金準備が間に合わなければ、65歳、70歳まで働くことも視野に入れるのがおすすめです。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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