2023年7月8日
老後
【FP解説】持ち家での年金10万で老後資金は足りる?老後資金の貯め方と対処方法を解説

「持ち家があれば、老後に家賃を支払う必要はなく安心」と若い頃にマイホームを買った人の中にも、「年金だけでは生活費に必要なお金が足りないのでは」と考え始めた人がいるでしょう。年金額は10万円ほどになってしまうこともあります。自分の年金額と必要な老後資金を照らし合わせ、資金不足に陥りそうなときどのような手段があるかを知っておけば、不安を取り除けます。老後資金の貯め方と対処方法を解説します。

老後に必要なお金

老後は、例え持ち家であったとしても、まとまったお金が必要になったり、生活費の負担が増えたりする段階があります。

定年直後:収入における住宅ローン返済の割合が大きくなる

定年後もローンを返済する必要があると、年金の中から毎月の返済額を支払わなければなりません。年金暮らしになると、働いていた頃と比べて収入額は大きく減少します。収入における返済の割合が高くなり、生活費を圧迫します。

60代後半~:家の老朽箇所の修繕が発生する

住宅ローンの支払いが済んでも、また済んでいなくても、家はどんどん老朽化するため、リフォーム代がかさむようになります。とくに水回りや床下などの本格的な修繕が必要になるのは、家を建てて20年ほど経ってから。100万円を超える工事となることもあるため、まとまった金額が必要です。

70代:病気、ケガのため医療費がかさむようになる

高齢になればなるほど、病気による通院が頻繁になります。「腰痛がひどくなり、動けないほどになった」「転んだだけなのに、骨にひびが入った」など、外傷も多くなりがち。若い頃より医療費がかさむようになります。

70代:家のバリアフリー化が必要になる

病気やケガにより介護が必要になると、家のバリアフリー化を検討しなければなりません。手すりやスロープの設置などについては、実際に要支援・介護認定が下りて介護保険が適用になれば補助金を利用できますが、大がかりなバリアフリー化を行う場合はまとまった自己資金が必要です。

80代:配偶者が亡くなると年金額が減る

2021年の調査によると、男性の平均寿命は81.41歳、女性が87.74歳です。配偶者を亡くすと、配偶者が受け取っていた分の年金が受け取れなくなります。配偶者が亡くなったときには、遺された人に「遺族基礎年金」が支払われる可能性もありますが、それでも配偶者が生きていた頃の収入額には届きません。

2人暮らしが1人暮らしになっても、食費や医療費が軽減するだけで、光熱費や家の維持費はあまり変わりません。年金しか収入がなければ、逼迫した生活が待っている可能性があります。

80代:施設などへの住み替え費用が必要になる

介護段階が上がるなどして自立した生活が困難になれば、一人暮らしあるいは老夫婦だけの暮らしを改め、住み替えるしかありません。このとき子どもの家などに身を寄せられれば軽微な負担で済みますが、施設入居となったときには、一時入居金や毎月の入居費が必要になります。

老後の収入と支出

年金生活に入る前に、老後、具体的にどのくらいの収入があり、どれほどの支出が必要になるかを押さえておきましょう。ここでは平均額について解説しますが、自身の現状の年金額は「ねんきん定期便」や、政府が運営にするオンラインサービス「マイナポータル」で確認できますので、参考にしてください。

年金記録・見込額を見る(ねんきんネット)【マイナポータル】

厚生年金による収入

厚生年金による年金収入は、「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」の2階建てです。この2つを総合した年金額を「老齢年金」とすると、令和元年度における厚生年金保険(第1号)受給権者の平均老齢年金月額は、1ヶ月あたり14万4,268円(男性16万4,770円、女性10万3,159円)です。厚生年金における「第1号」の保険者とは、民間の会社に勤務している厚生年金加入者を指します。つまりサラリーマンです。

サラリーマンの妻は自分で厚生年金を負担せず、夫に負担してもらいます。この場合、国民年金の「第3号被保険者」となります。国民年金受給者の平均年金月額は、5万6,049円です。

つまり、厚生年金加入世帯の場合、配偶者の有無や妻の働き方によって、平均年金月額は以下のようになります。

【現役時代の働き方】

  • サラリーマンと専業主婦の世帯:22万819円
  • 夫婦共働き世帯:26万7,929円
  • サラリーマンの独身世帯:14万4,268円

国民年金による収入

現役時代に厚生年金に加入せず、国民年金だけだった人の平均年金月額は、5万6,049円です。国民年金は、専業主婦であるか否かにかかわらず全国民が加入するため、夫婦の年金収入平均額は単純計算で11万2,098円となります。

参考:令和元年度厚生年金保険・国民年金事業の概況(厚生労働省年金局)

老後に必要な生活費

総務省の家計調査報告(令和2年)によると、「65歳以上の夫婦のみで構成される無職世帯」の一ヶ月の消費支出の平均値は、22万4,390円です。また、65歳以上の単身無職世帯の消費支出の平均値は、13万3,146円です。調査による消費支出の内訳は、「食料」「住居」「高熱・水道」「家具・家事用品」「保健医療」「交通・通信」「交際費」など。

先に挙げた年金受給額の平均値と、消費支出の平均値を引き比べてみると、とくにボリュームゾーンである「サラリーマンと専業主婦の世帯」であっても、明らかに赤字なのがわかります。国民年金の受給者にいたっては、健康である限り働く決意をしなければ、長い老後生活を破綻せず送ることは困難といえます。

老後資金に困ったときにできること

いざ老後になり、資金繰りに困ったときにできるのは、以下の5点です。

節約できないか家計を見直してみる

まずは家計を見直し、そもそも収入に見合った生活ができているのかどうかを確認しましょう。そして削れる出費がないか検討します。健康に直結する食費や医療費といった変動費を削るよりも、光熱費、通信費といった固定費を削った方が、長期的に節約へとつながります。

  • 電気代やガス代は、より安価に利用できる民間会社がないか調べる
  • 通信費は格安スマホの利用を検討する

以上のような方法を試してみましょう。

自分にできるパートがないか探してみる

家計を見直して、どうしても収支オーバーとなった場合には、足りない生活費を補填するためにパートやアルバイトの仕事を探してみましょう。働くことは、足腰を丈夫にしたり、やりがいを得たりといったメリットもあります。健康で働けるうちに資産を増やすのがよいです。

社会福祉協議会に相談する

どうしても支出が収入を超えてしまうことが続き、病気や高齢で働けないという状況になったら、まちの社会福祉協議会に相談しましょう。国や市区町村で展開している融資制度を紹介されたり、使える助成金がないか探してくれたりします。何より、相談することで「自分の窮状を福祉側が認識してくれている」という安心感が生まれます。

リバースモーゲージを活用する

リバースモーゲージとは、主に60代以上のシニアを対象とした融資の仕組みで、持ち家を担保にお金を借りるものです。ほかの担保型融資とは、元金の返済の仕方が違います。リバースモーゲージでは、毎月の返済が利息のみで、元金を返済するのはご契約者がお亡くなりになった後になります。相続人が、ご契約者の自宅を売却するなどして返済します。

都市部の駅近くに持ち家があるなどの場合には、融資額がかなり高くなることもあります。さまざまな金融機関でリバースモーゲージを取り扱っているため、まずは自分の持ち家があるエリアで商品展開している会社がないか、調べてみましょう。

住宅ローンの借り換えを検討する

支出のうち、とくに住宅ローンの割合が大きく、家計を圧迫している場合は、住宅ローンの掛け替えを検討するのもいいでしょう。

前項でも紹介しているリバースモーゲージの仕組みを活用した住宅ローンがあり、「リバースモーゲージ型住宅ローン」といわれています。毎月の返済が利息だけになるため、ローンの負担をぐっと減らすことが可能になります。一般的なリバースモーゲージと同様、元金の返済はご契約者がお亡くなりになった後、相続人が家を売却するなどの方法で行います。

老後資金に困らないように今できること

現在、まだ現役世代で、老後資金に困らないように今できることを探している人は、以下の5つを試してみましょう。

老後を想定して節約生活を開始する

ねんきんネットなどで自分の現状の年金額を確認したら、「老後の年金収入で、どれほどの生活ができるのか」を実際に体験してみるのがおすすめです。家計をおさらいし、不必要な出費は削るなどして支出を抑え、支出額を老後の収入額に近づけた節約生活を開始します。ふだんから節約生活に慣れておけば、いざ年金生活になったときにストレスとなりませんし、現役のうちから節約したことで貯金が増えます。

個人年金制度を活用して老後に資産を残す

公的年金ではなく、自分で自分の老後のために掛ける年金を個人年金といいます。自分が掛けたお金を自分で運用でき、税制優遇措置のある個人型確定拠出年金(iDeCo)などが有名です。毎月コツコツ積み立てることで、老後の自分を支えるイメージです。

投資の勉強をする

資産を増やしたいのであれば投資信託や株などの投資を行うのが一般的ですが、あまり投資の勉強をしたことのない人が急に手を出すと、かなりの大損をしてしまう恐れもあります。まずはリスクの少ない投資信託などから初めて、お金の勉強をするのがおすすめです。

持ち家のリフォームを済ませておく

持ち家の中に、痛みが気になる部分はありませんか。放っておくと、老後に突然、早急なリフォームが必要になる恐れがあります。古くなってきたと感じる部分があれば、現役世代のうちに修繕を済ませておくのがおすすめです。

融資制度について勉強する

「融資」というと、「つまり、借金でしょう」と敬遠してしまう人は多いでしょう。しかし、先ほど紹介したリバースモーゲージは、ご存命中に元金を返済する必要がない、シニアにとってメリットの大きい仕組みです。「融資」という言葉を敬遠してあまり検討してこなかったという人は、さまざまな融資の仕組みについて調べてみてはいかがでしょうか。

まとめ

高齢化となった現代日本において、年金額だけで老後の生活を送るのは難しくなりつつあります。しかし、持ち家のある人であれば、リバースモーゲージのように家を利用して融資を受けられる可能性があります。持ち家は維持費などの負担がかかるものですが、同時に揺るぎない自分の資産です。上手に活用して、有意義な老後を過ごしましょう。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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