2023年7月8日
老後
【FP解説】自営業で老後が悲惨にならないためにできることは?自営業だからできる老後資金対策

自営業者は老後に国民年金しかもらえないため、会社員と比べて老後資金がたくさん必要といわれています。自営業者でも悲惨な老後を送らないようにするためには、どのくらいの老後資金が必要なのでしょうか。老後破産しないために、今からできる資金対策や、利用したい国の制度などを解説します。また、自営業に限らずできることも紹介していきます。

自営業と会社員の老後資金

自営業と会社員では、老後に必要となる資金の額が大幅に違います。もらえる年金額が、かなり違うためです。2021年の調査によると、男性の平均寿命は81.41歳、女性が87.74歳。65歳以上を「老後」とし、90歳まで生きることを仮定したときに必要な老後資金について、自営業と会社員に分けて算出します。

自営業の老後資金

長年、国民年金だけを納付してきた自営業者が老後にもらえる年金は、「老齢基礎年金」の部分だけです。「老齢基礎年金」のほか、「老齢厚生年金」ももらえる会社員とは、もらえる金額にかなりの差があります。

令和元年度厚生年金保険・国民年金事業の概況(厚生労働省年金局)によると、令和元年度における国民基礎年金の平均受給月額は、5万6,049円です。この平均金額を夫婦で受給するとすれば、月々の年金収入は単純計算で11万2,098円となります。

一方で、支出の方はどうでしょうか。総務省の家計調査報告(令和2年)によると、「65歳以上の夫婦のみで構成される無職世帯」の一ヶ月の消費支出の平均値は、22万4,3900円。「65歳以上の単身無職世帯」では133,146円です。

この収支数値をもとに、夫婦2人暮らしの自営業者、あるいは単身で暮らす自営業者が無職の年金生活になった場合の老後資金を算出すると、以下の通りになります。

【夫婦2人暮らしの自営業者に必要な老後資金】

  • 65歳からの公的年金収入:11万2,098円
  • 一ヶ月の消費支出:22万4,390円
  • 赤字額:11万2,292円
  • 夫婦ともに90歳まで存命だった場合の必要老後資金:3368万7,600円(11万2,292円×12ヶ月×25年<65歳~90歳>)

【単身で暮らす自営業者に必要な老後資金】

  • 65歳からの公的年金収入:5万6,049円
  • 一ヶ月の消費支出:13万3,146円
  • 赤字額:7万7,097円
  • 90歳まで存命だった場合の必要老後資金:2312万9,100円(7万7,097円×12ヶ月×25年<65歳~90歳>)

いずれにせよ、自営業者であれば、現役のうちに2000万円から3000万円の資金を確保するか、65歳を過ぎてからも健康な限り働くという選択をする必要があります。

会社員の老後資金

一方で、会社員の老後の必要資金はどれほどでしょうか。「老齢基礎年金」のほか、「老齢厚生年金」ももらえるため、自営業者よりはゆとりがありそうです。先のデータによれば、令和元年度における厚生年金保険(第1号)受給権者の平均老齢年金月額は、1ヶ月あたり14万4,268円(男性16万4,770円、女性10万3,159円)です。

厚生年金における「第1号」の保険者とは、民間の会社に勤務している厚生年金加入者を指します。つまりサラリーマンです。「サラリーマンの妻」は、自分で厚生年金を負担せず夫に負担してもらう「国民年金の第3号保険者」。先ほど紹介したとおり、国民年金受給者の平均年金月額は、5万6,049円です。

よって、世帯構成により、会社員が老後に必要な資金は以下の通りとなります。

【サラリーマンと専業主婦の世帯に必要な老後資金】

  • 65歳からの公的年金収入:22万819円
  • 一ヶ月の消費支出:22万4,390円
  • 赤字額:3,571円
  • 夫婦ともに90歳まで存命だった場合の必要老後資金:85万7,040円(3,571円×12ヶ月×25年<65歳~90歳>)

【夫婦共働き世帯に必要な老後資金】

  • 65歳からの公的年金収入:22万819円
  • 一ヶ月の消費支出:26万7,929円
  • 赤字額:0円
  • 夫婦ともに90歳まで存命だった場合の必要老後資金:0円

【サラリーマンの独身世帯(男女平均)】

  • 65歳からの公的年金収入:14万4,268円
  • 一ヶ月の消費支出:13万3,146円
  • 赤字額:0円
  • 90歳まで存命だった場合の必要老後資金:0円

以上のように、赤字額は大幅に軽減されることが分かります。

自営業の老後資金で注意すること

年金額が乏しい自営業者は、老後資金について、どのようなことに注意すれば良いのでしょうか。3つの注意点をご案内します。

65歳を定年と考えない

自営業の強みは、定年がないことです。「何歳になっても、健康なうちは働く」と肝に命じましょう。「老後」が70歳、80歳になれば、そこから必要となる老後資金はぐっと減りますし、資産形成にも役立ちます。

投資や節税を勉強する

自営業者は、サラリーマンよりもお金の勉強が必要です。少しでもお金を増やし、また税金を抑えるため、投資や節税について学びましょう。仕事のスキルアップと同じくらい大切なことと言っても過言ではありません。

個人年金や融資の制度を知る

公的年金に対して、自分で自分の老後のために積み立てる年金を、個人年金といいます。個人年金を取り扱う金融機関は多く、種類もさまざま。自分に合った個人年金を選択して加入すれば、老後の安心につながります。

また、自営業者だからこそ、高齢だからこそ活用できる年金や、融資の制度があります。なかには自分が保有している不動産を活用して融資を受けられる仕組みもあるため、これも学んでおくと「いざというときの安心」を得られます。

自営業だからできる老後資金対策

以下、国の制度などを利用した、自営業だからこそできる老後資金の対策方法を3つご案内します。

国民年金基金

自営業者と会社員との年金格差を解消するためにできた制度で、自分で掛け金を決め、将来受け取る年金額を確定させることができます。加入後にプランの変更も可能なので、収入が変動しやすい自営業者でも安心して始められます。

受取期間は65歳からの一生涯で、早期に亡くなったときにも遺族一時金が支給されるタイプがあるため、掛け捨てにならないのがメリットといえます。また、掛け金は全額が社会保険料控除の対象になります。

小規模企業共済

独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営している、自営業者のための退職金制度です。1,000円から7万円の範囲で毎月掛け金を支払うことで加入でき、退職あるいは廃業時に共済金を受け取ることができます。

国民年金基金と同様に、積立金の金額を自分で設定し、加入後も増額や減額ができます。掛け金は、全額が社会保険料控除の対象となるところも、国民年金基金と同じです。国民年金基金と違う最大の特徴は、契約者が掛け金の範囲内で事業資金の貸付制度を利用できること。「緊急経営安定貸付け」「傷病災害時貸付け」「廃業準備貸付け」などがあり、一時的にまとまった資金が必要になったときや働けなくなったときに、家計が助かり、事業をたたまなくても良くなります。

iDeCo

「個人型確定拠出年金」の愛称です。これまで、企業型確定拠出年金に加入している会社員は加入できないとされていましたが、2022年10月からは、国民年金被保険者であれば誰でも加入できるようになりました。ただ、この記事を書いている2022年2月現在では、まだ自営業者向けの個人年金であるといえます。

ほかの個人年金と大きく違うのは、自分で掛金の運用方法を選び、将来の年金を運用すること。将来は掛金と運用益を給付できます。掛金は、全額が所得控除に対象となります。運用益も非課税ですから、税制優遇効果は高いです。

ただ、運用するということは、得することもあれば、損をすることもあります。元本割れとなってしまったら、老後のための資産が減ることにつながり、精神的にもダメージは大きいです。投資を行ったことのある人、リスクを受け止められる人のための制度といえます。

自営業に限らずやっておく老後資金対策

自営業者に限らず、老後資金対策は必要です。誰でもできる対策を、3点ご案内します。

NISA

「少額投資非課税制度」の愛称です。金融機関で特定の口座を開設し、投資を行うと、配当金や売買益が非課税となります。株式や投資信託等を購入できるのは、一人年間120万円までです。老後のためにこれから投資を始めて、お金を増やしたい人、投資の勉強をしておきたい人におすすめできるローリスクな投資です。

リバースモーゲージ

自宅を担保にお金を借り、ご契約者がご存命のうちは元金返済の必要がない融資の制度です。毎月の返済は利息のみで、元金を返済するのはご契約者がお亡くなりになった後です。相続人となった人が、ご契約者の自宅を売却するなどして返済します。この仕組みを使えば、自宅を担保としながらも、ずっと自宅に住み続けられます。

主に60歳以上のシニアを対象としたもので、事業資金のためには借りることができないので、老後の生活資金を確保するための仕組みといえます。また、住宅関連資金に特化したタイプもあり、バリアフリーのリフォームや住宅ローンの借り換えに利用できます。

持ち家は大切な財産ですが、老朽化による修繕やバリアフリー化など、リフォームにまとまったお金が必要になりがちです。もし「日常の生活費以外のお金が必要になったら、生活が困窮する」と感じているなら検討しましょう。

リースバック

自宅を売却し、買主と賃貸契約を結ぶことで、住み慣れた我が家で暮らすことができる仕組みです。売却益の使い道は自由なので、生活資金のほか、事業のためにも利用できます。ずっと自宅に住まうのではなく、老人福祉施設に入居したいという希望があるときにも、入居のための資金として活用できます。

リバースモーゲージも、リースバックも、「自分たち夫婦がいなくなった後は、誰も住み手がいない」という悩みの救世主です。空き家の手入れはとても大変。自分たち亡き後のため、すでに買い手が決まっているのがリバースモーゲージで、名義変更まで済んでいるのがリースバックという見方ができます。

老後の生活資金に不安があるなら、このように自分たちが持っている揺るぎない資産である「家」に注目し、活用するのはいかがでしょうか。

まとめ

以上、自営業者が老後に破綻しないための資金対策について解説しました。自営業者は、ある程度まとまった資金を自らの老後のために残しておく必要があります。シニアになってからとはいわず、ぜひ今日からでも、老後になったら何のためにお金が必要で、どのくらい足りないかをシミュレーションしてみましょう。そして足りない分の生活資金をどのように確保するか、対策を夫婦間で話し合うのが大事です。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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