2023年7月8日
老後
【FP解説】定年後に起業する「シニア起業」とは?起業するための注意点やメリデメを解説

長く勤めてきた会社を退職し定年を迎えた人の、その後の人生はさまざまです。悠々自適な老後を楽しむか、パートやアルバイトを始めるか、はたまた「第二の人生を謳歌したい」と起業するか。定年後に起業を考えている人のために、「シニア起業」の注意点や、メリット・デメリットを解説します。定年後から動き出すのは得策ではありません。今から準備を始めることで、スムーズな起業に結びつきます。

定年後に起業する「シニア起業」とは?

高齢化が進む中、定年後、あるいは定年を前に独立起業する「シニア起業」が注目を浴びています。「人生100年時代」といわれる現代において、65歳を定年で100歳まで生きるとすると、定年後はじつに35年もあります。「長い老後を支えるには、公的年金だけでは頼りない」「まだまだ健康で気力もある60代に、第二の人生を送りたい」と考えるシニア層が、次々と起業しています。

日本政策金融公庫総合研究所の調査によると、2021年7月の時点で「開業から1年」と回答した企業のうち、「開業時の年齢」を50歳代と答えたのは19.4%。60歳以上と答えたのが7.8%でした。ちょうど30年前、1991年の調査では50歳代が9.3%、60歳以上が2.2%と、シニア起業はまだまだ珍しかったといえます。

参考:「2021年度新規開業実態調査」(日本政策金融公庫総合研究所)

また、自分の好きなこと、やりたい仕事で起業を行い、無理せずにほどほどの収入を得る「ゆる起業」という企業スタイルが、話題になっています。「起業するなら、銀行からお金を借りて事務所を構え、人を雇い、たくさんの事業収入を得なければ」と肩ひじ張った考え方からは、かなり距離を置いた働き方です。

「ゆる起業」のジャンルは様々ですが、リモートワーク化が進んだ現代において特徴的なのが、事務所を構えるなどの初期費用を抑え、パソコンを1つ持って自宅などで起業するスタイルでしょう。このほか、家庭菜園でできた野菜を直売所に卸す、自作の手芸作品をネット通販で販売するといった方法があります。

体力に不安が生じ始め、また老後の暮らしを考えると莫大な初期投資はできないと感じているシニアにとって、この「ゆる起業」は選択肢の一つとして有効です。また、定年後に再雇用となり、正社員ではなく嘱託になった人は、副職が解禁されることもあるでしょう。「ゆる起業」は、気軽に取り組める副職としても期待できます。

定年後に起業するメリットとデメリット

定年後の企業には、メリットもあればデメリットもあります。それぞれ解説しましょう。

定年後に起業するメリット

定年後に起業するメリットは、以下の3つです。

  • 老後の金銭的な不安が解消される

老後、「公的年金だけの生活では心もとない」と感じているなら、起業によって資産を増やすことで、不安を解消できます。

  • 社会とのつながりを持続させられる

定年後、社会とのつながりを失ったことからさみしさを感じ、うつ状態になってしまう人もいます。定年後も起業できたなら、仕事を通じて社会に貢献していることを常に実感できます。

  • 身体的、精神的な健康を保てる

自営業者は「体が資本」。常に健康で、頭もクリアでなければ、仕事はつとまりません。シニアから起業し、ずっと仕事を続けていれば、健康的な体と心をキープできます。

定年後に起業するデメリット

定年後に起業するデメリットは、以下の3つです。

  • 体力が減退する

まだまだ若いといっても、やはりシニアです。現役のころと比べて、体力が徐々に減退していく恐れがあります。現役時代よりも、無理がきかなくなるでしょう。身体をいたわり、また運動などで鍛えながら「細く長く」事業を続けることが大事です。

  • 失敗すると危機的状況に陥りがち

大損を出しても、若いころなら「そのうち挽回できる」と立ち直れます。しかし、シニア起業の場合、負債がそのまま老後資金の目減りにつながってしまう恐れがあります。大やけどしそうな仕事には、手を出さないのが賢明です。

  • 自営に向かない人は方向性を見失いやすい

長年サラリーマンをやってきた人は、従う上司や給料をくれる会社がないことに戸惑う可能性もあります。事業がうまくいかなかったとき、方向性を見失いかねません。普段から事業について相談するコンサルタント的な存在を探したり、シニア起業仲間を増やしたりして、うまくいかないときにアドバイスしてくれる誰かを確保しておきましょう。

定年後に起業するために必要なこと

自分の強みを再確認する

まずは、どんなジャンルで起業するかを決めるためにも、自分の強みをもう一度確認しておきましょう。そのジャンルが「好き」という理由だけで起業したり、「できる」というイメージだけで走り出したりするのは危険です。

自分にとって興味のある分野で起業することはモチベーション維持のために大事なことですが、仕事として成立するためには、あなたの商品を買ってくれたり、スキルを見込んで依頼してくれたりする人が必要。「自分は、どんなジャンルで社会に貢献できるのか?」を改めて考えます。

シニアから心機一転して新しいことを行う人もいますが、よほどの前知識と意欲がなければ、新しいジャンルに手を出すのは危険です。シニアは若いころよりも気力・体力が不足してくる年代。新しいことを吸収するには、かなりエネルギーが必要と覚悟したほうがいいでしょう。自分が得意とし、その能力を求めてもらえる分野で勝負すると、すぐに閉業するリスクは低くなります。

一定程度のPCスキルをつけておく

どんなジャンルでの企業であっても、一定のPCスキルは必要です。またPC上であっても、仕事のやり取りに使うコミュニケーションツールは日々進化していますから、使ったことのないツールであっても抵抗なく受け入れられるような心構えは大切です。

人脈を確保する

開業しても、顧客がいなければ事業は成り立ちません。なるべく現役世代のうちに、人脈を確保しておきましょう。職場内や取引先に「定年になったら、〇〇の分野で起業します」とアピールしておけば、思わぬところから仕事が紹介される可能性もあります。

また、起業後につまずいたときや、モチベーションを維持しづらくなった時のため、シニア起業の仲間を増やしておくと安心です。現役のうちからシニア起業家たちとつながりを持てば、起業時に先輩方からのアドバイスを受けられるかもしれません。

定年後に起業するときの注意点

いざ起業となったときには、次の3つに注意しましょう。

まずは事業にかかる資金と老後の生活資金を算出しよう

事業を始めるときの初期費用や月々にかかる経費をシミュレーションするのはもちろん大事ですが、老後の生活資金を算出しておくのも、同じくらい大事です。

公的年金の金額と、月々の家計イメージを照らし合わせ、「月にいくら足りず、事業収入により〇円を確保しなければならない」あるいは「事業収入がなくても大丈夫、月々〇円までの赤字であれば補填できる」といったシミュレーションを行い、夫婦で共有しておきましょう。

家計イメージと事業シミュレーションの共有がうまくいかないと、事業で赤字が続いたときなどに配偶者の不信感が募り、仕事どころか家族まで失いかねません。

使える助成金がないか調べてみよう

国や県、各市区町村がシニア起業に助成金や支援金を支給している場合があります。多くは期限付きのため、起業年度が近くなったら調べてみましょう。最寄りの商工会議所は、良い情報源となります。

さまざまな融資システムを調べておこう

手持ち資金では足りず、融資を受けたいと考えている人は、官民それぞれが行っている融資システムを調べておきましょう。

「官」が行っている起業家向けの融資システムとしては、日本政策金融公庫が実施している「女性、若者/シニア起業化支援資金」が代表例です。低金利で7200万円までの貸付が可能になります。

「民」が行っている融資システムとしては、事業者向け不動産担保ローンがあります。持っている不動産を担保として、低金利で借り入れを受けられる融資の仕組みです。ただ、通常の不動産担保ローンでは、自宅を不動産とした場合、返済が不可能になったときに自宅を差し出さなければなりません。シニアにとってはリスクが大きいといえます。

自宅を担保にローンを借りることを検討していても、やはり不安が勝ってしまう人は、リバースモーゲージの利用を検討しましょう。リバースモーゲージも、自宅を担保に借り入れを行いますが、ご契約者のご存命中は利息のみの返済となります。ご契約者がお亡くなりになったとき、相続人が家を売却するなどの方法で元金を返済します。

リバースモーゲージで借り入れたお金の使い道は、事業ではなく生活資金に限定される場合もありますが、シニアにとってはまさに生活資金の確保が最優先事項。資金繰りが厳しくなった時には、検討の余地があります。

まとめ

以上、定年後の起業について解説しました。最近では、最初に大きな設備投資などをせず、自宅等で小さく起業する動きが目立ってきています。「大きく事業展開するより、自分の好きなことで少しだけ稼いで、生活費の補助としたい」「老後の不安を大きくしないためにも、リスクの大きな起業は避けたい」と考える人に最適です。定年後も、無理なく起業することでやりがいと体力・精神力をキープし、いつまでも元気に社会とつながりましょう。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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