2023年7月8日
老後
【FP解説】高齢者向けのシニアフィットネスとは?実施内容や実施する際の注意点を解説

超高齢化社会において、介護がいらず自立した生活を送れる期間「健康寿命」を延ばすことは、シニアの目標といっても過言ではありません。高齢者向けのシニアフィットネスは、身体を動かすのが難しい高齢者でも通うことのできるスポーツクラブです。無理のないトレーニングで健康寿命を延ばしたい人に向いています。高齢者フィットネスが広がっている背景や実施内容を紹介したうえで、利用する際の注意点をご案内します。

高齢者向けのフィットネスが広がる理由

日本における65歳以上の高齢者人口は、およそ3640万人。これは総人口の29.1%を占めます。医療、介護、健康、生活産業などを主としたシニア向けのサービス市場は、2025年までに100兆円超えの市場規模となる見込みがあり、年々活気を見せています。

シニア向けサービスの中でも、とくに60代以上を加入対象とした高齢者フィットネスは、「健康寿命を延ばす」がテーマ。長寿であっても、介護が必要な状態が何年も続くようであれば、生活への満足度は低いと言わざるを得ません。

日本人の平均寿命(2020年時点)は、男性が81.64歳、女性が87.74歳ですが、介護の必要がなく自立して日常生活が送れる期間である「健康寿命」は、男性が72.68歳、女性が75.38歳となっています(厚生労働省「健康寿命の令和元年値について」)。自立した生活ができない期間が、8~12年も続くのは、本人にとっても介護する家族にとってもかなりの負担です。

長く生きるなら、健康で自立した生活ができる状態をいつまでも維持したい。そんなシニアの願いをサポートできるのが、高齢者フィットネスです。

フィットネスで体力づくりを行うシニアは、年々増え続けています。

平成26年版「産業活動分析」によると、世帯主の年齢階級別「スポーツクラブ使用料」(二人以上世帯)は、60歳代がダントツのトップ。加えて、スポーツクラブ使用料支出金額の全体に占める世帯主の年齢階級別シェアは、60代が39.6%、70代が25.5%と、全体のおよそ65%を占める結果となりました。

事実、シニア層の体力はアップし続けています。令和2年度「体力・運動能力調査報告書」によると、65歳以上の男女に対して行った体力テスト(握力、上体起こし、10メートル障害物歩行、6分間歩行など)の合計点数は、平成10年のデータと比べて5点程度のアップが見られます。そして、これはすべての年代に共通することですが、スポーツクラブに所属している群の合計点が、所属していない群よりも高いことも示されています。

いつまでも健康で、自立した生活をしたい。高齢者のそんな願いが高齢者フィットネス人口の増加につながり、またシニア層の体力テストの成績アップという形で結果も出ている。これが、シニア層と高齢者フィットネスにおける現状です。

高齢者フィットネスをおすすめする人

高齢者フィットネスをおすすめするのは、以下5つのいずれかに当てはまる人です。

「健康貯金」を貯めたい人

私たちの身体能力は、年を取るにつれて減少してきます。加齢で筋肉が固くなり、また運動不足で筋力が低下することによって、身体は痛みが出やすくなります。トレーニングを行うことにより、筋力を保持し、筋肉のしなやかさを保てれば、身体能力の低下を遅らせることができます。このようなトレーニングを「健康貯金」といい、実践すればするほど「健康貯金が貯まる」=「若々しく元気でいられる期間が長くなる」とされています。

まだまだ若々しく健康な定年直後から高齢者フィットネスを始めれば、加齢による身体能力の減少を、緩やかにすることができるでしょう。現役のころ運動不足だった人は、かえって筋力がアップし「肩こり、腰痛が治った」「持久力がついた」と感じられるかもしれません。

「健康貯金」を貯めるには、フィットネスなどで体を鍛えるほか、健康的な食習慣を身につけたり、睡眠不足を解消したりするのも効果があるとされています。トレーニングと合わせて実践すれば、内側からも外側からもイキイキとした体づくりが可能になります。

体力に自信はないけれど、運動を楽しみたい人

「フィットネス」と聞くと、「体力に自信のある人が通うスポーツクラブでは?」と身構えてしまう人もいるかもしれません。しかし、高齢者フィットネスには、体力に自信のない人こそが楽しんで取り組めるプログラムがそろっています。「もっとハツラツと体を動かしてみたい」「体力をつけて、いろんなスポーツを楽しんでみたい」と願う人にピッタリです。

健康的にダイエットをしたい人

高齢者フィットネスには、筋力を無理なくアップさせるプログラムが豊富に用意されています。過度な食事制限など不健康なダイエットをせずに、引き締まった体がほしいと願う人にピッタリです。器具を使わないプログラムであれば、家でも実践できます。毎日コツコツトレーニングして、健康的な美しさを手に入れましょう。

腰痛、肩こり、ひざの痛みなど、体の痛みが出始めた人

高齢者フィットネスには、体をほぐし、血行を促す運動プログラムが多数用意されています。筋肉の柔軟性をアップさせれば、体の痛みを和らげられる可能性があります。ただ、痛みが強く通院しているような状態であれば、運動がかえって体の痛みを悪化させる恐れも。その際は医師や整体師に「フィットネスをやりたい」と相談し、指示に従いましょう。

加齢などにより身体的な障害が生じているが、健常な部位を健康なまま保ちたい人

高齢者フィットネスには、車いすの人でも取り組めるプログラムや、障害のある部位を守りながら他の筋肉を鍛える知識を持っているインストラクターが充実しています。介護資格を保持したスタッフが常駐しているフィットネスもあるため、身体に障害があっても安心して通えます。

高齢者フィットネスの実施内容

ここで、高齢者フィットネスの実施内容を、一例としてご紹介しておきましょう。具体的なプログラムは、各フィットネスによって違います。自分が通える範囲にある高齢者フィットネスのホームページなどで確認してください。

バイタルチェックとウォーミングアップを念入りに

まずはバイタルチェックから始まるのが、高齢者フィットネスの特徴です。体温、血圧、脈拍などに異常はないかを確認してから、ウォーミングアップを行います。ストレッチや簡単な体操で、体を温めます。

足腰を強化するプログラム

多くの高齢者フィットネスでは、身体能力の減少による転倒や腰痛を予防するため、足腰を強化するプログラムが組まれています。足踏み運動、スクワット、ストレッチなどを取り入れたプログラムで、筋力アップと柔軟性の維持を狙います。

プール内を歩行するプログラム

高齢者フィットネスにはプールが併設されているところも多く、プールを使った高齢者向けのプログラムが用意されています。もちろん泳ぐことも可能ですが、プール内を歩行するだけでもトレーニングが可能です。重力による負荷が少ない水中を歩くことで、腰に過度な負担をかけず、バランスよく筋肉を鍛えられます。

脳を活性化させるプログラム

認知機能の低下を防止するため、体を動かすゲームなどを利用して、手先の器用さや注意機能の向上を図るプログラムです。音楽に合わせて「右足を上げて、次は左手を下げて」といった指示に応える体操や、参加者が車座になってボールを回すゲームなど、みんなで楽しく取り組める内容が多いのが特徴です。

歌を歌って肺機能を鍛えるプログラム

肺機能を高めるためには、深呼吸を行ったり、大きな声を出したりするのが効果的。大声で歌を歌うプログラムは、肺機能活性化にぴったりなうえ、歌うことで楽しさを感じられるのが魅力です。ただし2022年現在では、感染対策の観点から、大人数で歌を歌うプログラムを休止するフィットネスが少なくありません。

昔の遊びを取り入れたプログラム

けん玉、ゴム縄、お手玉など、懐かしい昔の遊びを楽しみながら、トレーニングができます。とくにけん玉やお手玉は、集中力と体のバランスを保つ力が重要。子どもの頃の遊びが、そのまま高齢者向けのフィットネスプログラムになっています。

リハビリプログラム

パーソナルトレーニングとして、一人一人の体の悩みに特化したリハビリプログラムを提供してくれる高齢者フィットネスが多くあります。後遺症がある、障害があるといった場合は、インストラクターに相談すれば個別のリハビリプログラムを考えてくれます。

また、大手フィットネスクラブが、介護事業の一環として高齢者のためのリハビリプログラムを開発しているケースも。リハビリのプロである理学療法士と、運動のプロであるインストラクターがタッグを組んで考えるプログラムだから、療養後の復帰が早まることが期待されます。

高齢者フィットネスの注意点

高齢者フィットネスを利用したいと考えたら、以下の3つに注意しましょう。

入会前に見学し、自分の目的とプログラムがマッチしているか確認する

用意されているプログラムの内容は、フィットネスによって実にさまざまです。入会前の見学はしっかり行い、自分の目的に沿ったトレーニングができるクラブかを見極めましょう。対応してくれるインストラクターにも、目的をきちんと伝えます。

自分のペースを守る

高齢者の体調は、急に変化することがあります。バイタルチェックで異常が出なくても、運動をしているうちに「いつもより疲れが出るのが早い」「動悸がしてきた」と感じたら、すぐにインストラクターへ申し出て休むようにしましょう。みんなと一緒にプログラムをやっている最中だからと、遠慮することはありません。

自治体によっては利用料金の一部補助事業を行っている

高齢者の介護予防を推進するため、高齢者フィットネスの利用料金を一部補助してくれる自治体があります。利用するフィットネスが指定されていたり、申し込みを受け付ける時期が限定されていたりする可能性があるため、まずは自治体のホームページなどで該当事業を行っているか調べてみましょう。どうせなら、お得に利用したいですよね。

参考:「シニアフィットネス習慣普及事業」(千葉市)

まとめ

以上、高齢者フィットネスの内容、向いている人、注意点などについて解説しました。一棟まるごと高齢者フィットネスの施設や、フィットネスクラブの中に高齢者向けプログラムがあったり、「女性限定」であったりと、フィットネスの種類はたくさんあります。近くのフィットネスで自分の目的がかなえられそうか、まずは実施内容を調べてみましょう。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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