2023年7月8日
老後
【FP解説】年の差婚の老後に向けて準備しておくことは?注意点や対策を解説

年の離れた人と結婚をすると、一方がかなり早く老後を迎えることになります。とくに夫が10歳以上年上の年の差婚においては、夫が老後を迎えてから、お金や介護に関する悩みが増えがちです。夫が退職してしまうのに子どもがまだ幼いとなると、さらに不安が付きまとうでしょう。年の差婚夫婦のお金まわりについて、老後に備えて気をつけておくべきことを解説します。

年の差婚で生じる問題

どのような夫婦であっても、人生を共に歩むにあたっては様々な困難を乗り越えていかなければなりません。しかし、年の差婚のなかでも「年上の夫が大黒柱、年下の妻が専業主婦」という年齢構成の夫婦の場合は、次のような問題から不安を感じやすいといえます。

夫が、かなり早く老後を迎えてしまう

仮に15歳差の年の差婚だとすれば、妻が50歳のとき、夫は65歳になります。65歳は、年金受給が始まる年齢。つまり老後生活の始まりを意味します。大黒柱の収入が年金のみと激減する一方で、専業主婦の妻の余命はまだまだ長いという状態になります。預貯金をしっかり蓄えておかなければ、夫婦の生活を支え切れない状態がやってくるかもしれません。

介護が早く始まってしまう

介護の必要がなく自立生活が送れる期間の「健康寿命」は、男性が72.68歳、女性が75.38歳とされています(厚生労働省「健康寿命の令和元年値について」)。15歳差であれば、夫が72歳のとき、妻はまだ57歳です。女性の50代といえば、本来なら子育てが一段落し、やっと自分の時間を十分に持てる年代。そんな自由な期間を謳歌しないうちに、配偶者の介護が始まってしまうことを、覚悟のうえで結婚しなければなりません。

身近な誰かに不安を相談しにくい

年の差婚ならではの不安は、同じような年の差の夫婦同士でなければわかりづらいものです。しかし、配偶者との年齢が離れれば離れるほど、同じような仲間を見つけづらくなります。不安を感じたとき、共感やアドバイスをしてくれる存在がなかなか見つからず、孤独感を募らせることもあります。

年の差婚で気を付けるお金に関すること

年の差婚の不安を少しでも和らげるため、まずはお金に関する注意点を解説します。注目すべきは「住宅資金」「教育資金」「老後資金」の3つです。

住宅資金

マイホーム購入の際には住宅ローンを活用するのが一般的です。しかし、主な働き手である夫が妻よりもうんと年上の場合、住宅ローンの返済期間を長く設定することができないことに注意しなければなりません。

住宅ローンを組む際には、借入額が同じであっても、返済期間を長く設定できる方が月々の支払いを安く抑えられます。住宅ローンの返済年数は最長35年です。30歳の人が35年のローンを組めば、完済時には65歳。ギリギリ定年までに支払いを終えられる計算です。

一方、年の差婚では、「夫が40代後半」というケースも珍しくありません。45才で35年ローンを組むと、完済時は80歳になっています。仮に60歳で定年退職したら、あとの20年は年金収入だけでローンを支払わなければなりません。また、各銀行が設定している完済時期の年齢制限によっては、そもそも長期間のローンを組むことが難しくなります。

よって年の差婚で住宅ローンを組む際には、完済時期の年齢制限を確認したうえで、以下を意識しましょう。

  • 定年後の収入でも返済できる金額のローンを組む
  • 機会があれば繰り上げ返済を行う

なお、60代以降を対象とした住宅ローンには、リバースモーゲージ型の仕組みを利用したものがあります。リバースモーゲージとは、自宅を担保に借り入れを行う融資の仕組みです。毎月の返済額は利息のみで、元金はご契約者がお亡くなりになってから、相続人が自宅を売却するなどの方法で返済します。リバースモーゲージ型住宅ローンは、新築・中古物件の購入のほか、リフォーム費用や住宅ローン借り換えのためにも使えます。夫がシニアにさしかかっているなら、検討してみましょう。

教育資金

年の差婚で子どもを持つと、夫の定年退職後に、教育資金として最もお金が必要になる大学生の時期が訪れることも。年金収入だけで、住宅ローンも教育資金もまかなうのは至難の業です。なるべく夫が現役のうちに、教育資金としてまとまった金額を用意しておく必要があります。

日本政策金融公庫の調査によると、高校入学から大学卒業までを対象とした「子ども一人当たりにかける教育費用(入学・在学費用)」の平均値は942.5万円です(2021年の値)。内訳は以下の通りです。

  • 入学費用(受験料、受験のための交通費・宿泊費、学校納付金など)
  • 学校教育費(授業料、通学費、教材費など)
  • 家庭教育費(通信教育費、参考図書費、学習塾や家庭教師の月謝など)
  • 自宅外通学にかかる費用(仕送り費、アパートの敷金・礼金、家財道具の購入費など)

かかる費用は、学校が公立か私立か、専攻分野は何か、自宅からの通学か一人暮らしかによっても違います。我が子の希望や適性に合わせて、教育資金として予測される金額をあらかじめ用意しておかなければなりません。

老後資金

「住宅資金」「教育資金」の項でも言及しましたが、年の差婚で生じる資金問題の根本原因は、一方が働ける期間が短いことに尽きます。つつがない老後を送るためには、住宅ローンや子どもの費用のほか、自分たちが暮らすための資金についても考えておかなければなりません。

仮に夫の年収を400万円、妻はゼロと換算した場合、想定される年金受給額は13.4万円です。妻が65歳以上になれば、妻にも年金が入ってくるため19.8万円となりますが、年の差婚の場合は低収入でやりくりしなければならない期間が長くなります。

定年後の赤字を補填するためには、以下の3つが必要です。

  • 夫は定年後も何かしらの形で収入を得る
  • 妻は新たな大黒柱として働く
  • 定年までになるべく資金を貯める

現在の家計支出から、定年後の生活にはいくらかかるかを算出し、足りない分を補填するための貯蓄や投資を始めましょう。

年の差婚で老後に気を付けること

ここまで、年の差婚の資金問題について解説してきましたが、お金の問題以外にも気をつけるべき点があります。3つご紹介します。

夫は健康寿命を長く保つ努力を

夫婦ともにハツラツとした生活を長く送れるよう、夫は健康寿命を長く保つ努力をしましょう。身体を動かす趣味を持ったり、深酒・タバコを控えて健康的な食習慣を送ったり、規則正しい生活を意識したり。「将来、妻に寂しい思いをさせたくない」「子どもにとって、いつまでも頼れる父親でありたい」という想いが、自分の体をいたわり鍛える原動力となります。

妻は総合的な自立を

妻は、夫亡き後「おひとりさま」の人生が長く続く可能性があります。15歳差だったら、夫が男性の平均寿命である81歳を迎えたとき、妻はまだ66歳。女性の平均寿命である87歳を迎えるまで、21年を「おひとりさま」で過ごさなければなりません。

経済的な不安はもとより、精神的な寂しさにそなえるため、妻は経済的にも精神的にも自立した女性になれるよう、早くから努力しましょう。長く専業主婦だった人は、パートやアルバイトを始めてみると、自分で家計を補填できる安心さに加え、さまざまな世代・性別の人と交流できる楽しさを手に入れられます。

また、新しい趣味を見つけ、サークル活動に参加してみるといった取り組みも、出会いの輪を広げていきます。働いたり、趣味に打ち込んだりと、家庭から少し離れて一人で活動してみると、夫との時間がさらにかけがえのないものに思えてくるはず。妻の総合的な自立は、夫婦のきずなを深めるためにも有効です。

定年後は家庭での役割を変えていく

年の差婚は、夫の定年後、妻に大黒柱をバトンタッチすることで経済的に安定します。その際は、「主婦(夫)」業や子育て業を、妻から夫にバトンタッチするのが夫婦円満のコツです。夫が定年後に家事育児を担ってくれれば、妻はキャリアを築くことに集中できます。年の差婚の家庭を長く円満に続けるため、定年後は夫、妻ともに家での役割を変えていきましょう。

年の差婚の老後に向けた準備

ここまで、年の差婚の資金に関する問題と資金以外の問題について触れてきました。これらを踏まえ、「老後に向けてしかるべき準備を」と考えている人に、どんな準備をしていけばよいのか段階的に解説します。

今後、必要になる費用についてシミュレーションする

まずは、夫婦ともに平均寿命まで生きると仮定して、生涯資金のシミュレーションを行うことをおすすめします。具体的な手順は、以下の通りです。

【支出について】

  • 現在の家計支出を年単位で明らかにする。
  • これからかかる「住居資金」「教育資金」「老後資金」を試算する。
  • 夫81歳、妻87歳の平均寿命になるまで、どの段階でいくらの支出があるかを振り分けてみる。

【収入について】

  • 定年までどのくらいの収入が見込めるかを試算する。

支出と収入を照らし合わせて、以下の3点を把握します。

  • 家計が苦しくなる時期
  • 家計が苦しくなる時期のために貯蓄、あるいは働いて補填しなければならない金額
  • 夫や妻が働いて補填しなければならない金額・期間

シミュレーションが難しい場合は、ファイナンシャルプランナーなど、家計のプロに相談しましょう。以下のような、簡便に家計をチェックできるサイトも存在します。

日本FP協会「便利ツールで家計をチェック」

子どもと老後の資金計画を共有しておく

子どもには、なるべくお金の心配をかけたくないものです。しかし、子どもの側もある程度の年齢になれば「うちは年の差婚だから、周りの同級生よりも早く親を亡くすかもしれない」ということを考えるでしょう。そして「父の定年後、うちの経済状態はどうなるのだろう?」と不安が頭をよぎるかもしれません。

子どもの不安については、先取りして解消してあげるのがおすすめです。老後の資金計画がしっかり定まったら、「お父さんが定年になったら、お母さんが代わりに働くよ」「大学資金はしっかり別に貯金してあるから大丈夫」など、子どもの年齢に応じて、伝えられることは伝えておきましょう。そうすれば、子どもは安心して希望の進路を歩めます。

夫は定年後の働き方を決めておく

資金計画が定まり、「定年後は●年間働いて、月々●円を家計に補填する」と決まったら、夫は定年になる前から働き口をリサーチしておくのが理想です。定年後も長く働くには、「ストレスなく」「体力をなるべく温存して」働けることが大事。勤務先で嘱託社員の募集があれば、条件をチェックしておきましょう。得意分野で独立するのも、マイペースに働く手段として有効です。

まとめ

年の差婚の老後には、以上のように気を付けるべき点がいくつかあります。しかし、介護する側もされる側も高齢者となる「老々介護」の心配がありません。また、一方が年金生活になっても、もう一方が働ければ、年金収支のみの夫婦よりも家計は安定します。年齢差があることを前向きにとらえ、自分たちだけのシニアライフプランを築き上げていきましょう。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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