親が高齢になると、介護の不安がつきまといます。要介護状態の家族の世話をするために「介護離職」をする労働者は年間およそ9万人。介護のために退職すれば収入は不安定になり、貧困に陥る人も少なくありません。介護離職にならないために、介護休暇や介護休業を取得しましょう。育児・介護休業法では、介護休暇を取得するにあたり、診断書の提出など必要な条件が定められています。申出に必要な書類、申請方法などを解説します。
介護休暇とは、父母や配偶者、子など、家族が要介護状態になったとき、労働者が対象家族のケアにあたるための休暇をいいます。要介護状態とは、ケガや病気、身体障害、精神上の障害によって2週間以上の常時介護を必要とする状態のことです。
よって、「介護休暇」という名称ではありますが、まずイメージされる老親の介護のほか、「子どもが事故にあった」「配偶者がガンと診断され、手術を受ける」といった場合も、要介護状態に当てはまれば介護休暇が取れる可能性があります。
育児・介護休業法は令和3年に改正され、より有期雇用労働者が取得しやすい仕組みづくりとなり、段階的に施行されています。この記事では、介護休暇の申請に必要なことを解説するのはもちろん、改正前と改正後の違いについてもご案内します。
介護休暇の概要は、次の通りです。
介護休暇は、介護が必要な家族のケアのため、申請により年間5日の休暇を取得することができます。以前は1日単位での取得でしたが、令和3年1月から、1時間、2時間といった時間単位での取得が可能になりました。
年間5日の介護休暇であっても、例えば「午前中だけ病院の付き添い」という目的で使用して半休とすれば、休暇を取得できる機会が増えることになります。
介護の対象となる家族が2人以上であれば、年間10日の介護休暇が取得できます。半日ずつ利用すれば、年間20日です。ただ、介護対象家族が3人、4人と多くても、休暇日数の上限は10日となります。
介護休暇を取得できるのは、日々雇い入れられる者(いわゆる日雇い)以外の労働者です。また、労使協定によって、次のような人は介護休暇を取得できないケースがあります。
①継続して雇用された期間が6か月に満たない労働者
②1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
③時間単位で介護休暇を取得することが困難と認められる業務に従事する労働者
ただし、③に該当する人は、1日単位であれば介護休暇の取得が可能です。なお、厚労省のガイドラインにおいては、①に該当するような新入社員であっても、一定の日数を取得できるようにすることが望ましいとされています。
介護休暇を取得するときは緊急性が高いことが多いという性質上、当日に電話で休暇を申し出てもよいとされています。その場合、必要書類などは、事後に提出することになります。
また、「午後2時に仕事を抜けて介護家族の送り迎えをし、2時間後に仕事へ戻ってくる」というような、いわゆる「中抜け」もできるとされています。
介護休暇の申請に必要な情報は、以下の通りです。
会社側へ、要介護状態にある家族の名前と、自分にとってその家族がどんな間柄なのかを明確に伝えます。
介護休暇を申請する年月日と、時間単位で休暇を取得したい場合はその時間帯を伝えます。
家族が要介護状態にあることは、口頭で申し出ることも可能です。しかし、もし会社側から「診断書の提出を」と求められれば、指示に従わなければなりません。
ただ、厚生労働省は、「証明書類の提出を求める場合には事後の提出を可能とする等、労働者に過重な負担を求める事にならないよう配慮」すべきとしています。確かに、事故に巻き込まれる、急に倒れて救急車に運ばれるといったような事態であれば、診断書を用意する時間的余裕はありません。緊急事態においては、企業側が事情を汲み取ることが重要視されています。
介護休暇は、前章でご案内した必要情報を口頭で伝えること、もしくは書面で提出することにより申請できます。一般に想定される申請方法は、以下のような手順です。
まずは、会社側に介護休暇が必要なことを伝え、指示を仰ぎましょう。緊急のときには、直属の上司に伝えればそれだけで済む場合も。「事態が落ち着いたら人事へ連絡を」との指示が出ることも想定されます。
緊急により書面での提出が難しい場合には、電話を利用しましょう。対象家族の氏名や続柄、現在の状況、休暇を取得したい日数など、介護休暇の申請に必要な情報を口頭で伝えます。
介護休暇後、出勤したら速やかに申請手続きをします。会社が用意している介護休暇申請書に必要事項を記載し、上司や人事部など、会社の求めに応じて書類を提出しましょう。
介護休暇を申請するときには、以下の3点に注意しましょう。
有給休暇の場合、休暇中も給料が発生しますが、介護休暇の場合は、そうとは限りません。育児・介護休業法においては、介護休暇によって働けない期間の給与について、法的な規定を設けていないためです。介護休暇の期間に給与が発生するかどうかは、会社の就業規則で決められています。改めて就業規則を確認しておきましょう。
要介護状態の家族をケアするために休みを取る手段としては、「介護休業」もあります。介護休業とは、対象家族1人につき、通算93日まで休日を取得できる制度です。合計の休業日が93日に達するまでは、3回までなら分割して取得することが可能です。
介護休業は長期的に家族のケアをしなければならないときに有効なため、「遠い実家に帰省して親の介護環境を整えなければ」と感じる場合などにおすすめの方法です。また、介護休暇と同様、給与が支払われるかどうかは会社の規定によりますが、介護休業の場合は後日申請すれば「介護休業給付金」が受給できる可能性もあります。条件を満たせば、最大で賃金の67%が支給されます。
介護休業のデメリットは、休業開始日の2週間前までに申し出なければならないこと。介護休暇に比べて休業日数が長く、仕事に影響が出やすいためです。よって、突発的で短期的な介護が発生したときには、介護休暇を利用する方がよいです。
介護休暇に関する制度は、全ての企業に義務づけられる最低の基準となっています。つまり、企業によってはそれ以上の手厚い制度を設けている可能性があるということです。会社が提供している福利厚生について改めて確認してみましょう。
以上、介護休暇について解説しました。家族の介護が始まると、働き盛りの世代においては仕事との両立が課題になりがちです。介護休業、有給休暇などの制度をうまく活用し、介護離職に陥らないようやりくりしましょう。介護が始まりそうになったら、まずは直属の上司や人事に相談し、どんな制度が利用できるのか情報を集めておくことがおすすめです。