「子どもではなく、孫に直接遺産を渡すにはどうしたらいい?」「孫に相続させれば相続税が一世代節約できるのでは」と、孫への相続を考えているシニアの方もいることでしょう。子どもが生存している状態では、孫は法定相続人にはなれませんが、遺言等により遺産を相続させることは可能です。ただし、いくつか留意点があります。孫への遺産相続のメリットとデメリット、注意点を解説します。
孫に遺産を相続させる方法は、主に次の3つです。
特定の、あるいは一定割合の遺産を孫に引き継がせる旨の遺言書を作成することができます。遺言書を作成すれば、孫に限らず他の誰かに財産を残すことも可能です。ただ、「遺産の全てを孫に」といった、配偶者や子どもなど本来相続人である人の法定相続分を著しく侵害する遺言を残すと、孫が遺留分を請求されることもあるため注意が必要です。
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法定相続人の順位は決まっており、配偶者はいつでも相続人になれ、そのほかは第一位が「子や孫などの直系卑属」第二位が「父母や祖父母などの直系尊属」第三位が「兄弟姉妹」となります。子どもが生きている限りは、孫は遺言によらない限り相続できませんが、孫を養子にすることで子どもとしてカウントされ、法定相続人になれます。
子どもが亡くなると、相続権は孫に移ります。これを代襲相続といいます。代襲相続の状況は、子どもが亡くなる以外には作り出すことができません。
以上のうち、1、2の方法で孫に相続させると、相続税額が2割加算されます。一親等の血族(父母と子どもを指します)及び配偶者以外が相続や遺贈によって財産を取得した場合は2割加算の対象となるためです。代襲相続はその限りではありません。
相続以外で、つまり自分が生きているうちに孫へ財産を渡す方法があります。節税できる方法に限って解説します。
孫に限らず、誰に贈与した場合であっても、年間110万円以内であれば、贈与税がかかりません。ただし毎年同じ月日に口座へ入金するなどといった方法をとると、数年にわたる送金であっても一括贈与とみなされる場合があるため注意が必要です。
相続時精算課税制度を利用すれば、20歳以上の子または孫に対して贈与を行う際、数度にわたる贈与であっても合計して2,500万円までは非課税です。ただし、相続時精算課税制度を選択すると、1で紹介した暦年贈与は選択できなくなります。また、相続時に贈与分が相続財産として加算されるため、合計遺産額が控除額を超える場合、相続税がかかることになります。
ただ、贈与分の価額は、贈与を受けたときの時価が採用されるため、値上がりが見込まれる財産を孫に譲っておけば節税となります。
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2021年4月現在 、「20歳以上50歳未満の子や孫の結婚・子育て資金として1,000万円までの一括贈与は非課税」、「20歳以上の子や孫が家を建てる際の援助として最高3,000万円までが非課税」、「30歳未満の孫への教育資金として1,500万円までの一括贈与は非課税」といった特例があります。期限をよく確認して利用したいものです。また、今後もこういった特例が出てくることが期待されます。
孫に遺産を相続させる場合、節税面にメリットとデメリットが生じます。「相続の一代飛ばし」はメリットでありながら、「相続税の2割加算」がデメリットとなり、孫に遺産を相続させた方が節税になるのか、そうとも限らないのかは、各個人の事情によります。
孫に遺産を相続させると、確かに相続の一代飛ばしとなり、一世代分、相続税が節税できます。相続税が2割加算されたとしてもトータルで節税になるなら、実行する意味はあるでしょう。確実に値上がりすることが分かっている財産や、数十年後も価額が大幅に変動しないと想定される不動産については、孫への相続が有効といえます。ただ、やはり個々の事情によりますので、詳しくは専門家に相談するのがよいでしょう。
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孫に遺産を相続させるときは、以下の3つに注意しましょう。
遺言により、あるいは孫を養子に迎えることにより孫へ直接財産を残す場合は、他の法定相続人の相続分が減少することになります。他の相続人たちとトラブルにならないよう、生前に親族会議を行い、きちんと話をしておきましょう。
未成年者が相続人となる場合、相続手続きには法定代理人を立てなければなりません。親が同時に相続人とならない場合は、親が法定相続人になることができます。しかし、親も相続人の一人である場合は、親は法定相続人になりません。「利益相反」の関係になるためです。
親が法定代理人になれない場合には、家庭裁判所に申し立てを行い、特別代理人の選任を請求しなければなりません。このように手続きが少し煩雑になります。
渡したい財産が現金である場合、暦年贈与のようにコツコツ贈与する方法は、手続きや節税効果について考えなくて済みます。もっとも気楽な贈与法といえるでしょう。
また、扶養者である父母や祖父母が、被扶養者である子や孫の生活費や教育費用をその都度負担することは、当たり前の行為とみなされ贈与税の対象になりません。進学や入学の際に「入学金の分だけ負担させて」「教科書や文房具の足しにして」などといって、少額の負担をそのつど申し出てみてはいかがでしょうか。ただ、一括して大きな金額を渡したり、生活費や教育費用に使わずすべて預貯金に回して貯め込んだりすると、贈与とみなされる場合があるため注意しましょう。
以上のように、孫に財産を渡す方法はいくつかあります。相続が良いか、贈与が良いかは、節税効果を見越して慎重に決めましょう。とくに評価価額が変動する不動産の相続や贈与は、専門家にも相談しながら進めるのが吉です。贈与や相続の際に節税するため、現金を不動産化するという方法もあります。今のトータルでの財産を把握して、それぞれどのような相続方法が適切かを考えることが大事です。