2023年6月1日
相続
【FP解説】兄弟姉妹に遺留分の権利はない?認められていない理由や兄弟が相続する場合の割合

どのような遺言内容であっても確保される法定相続人の権利を遺留分と言いますが、故人の兄弟姉妹については認められていません。
故人の子や親などがおらず、本来であれば兄弟姉妹が遺産をもらえるケースでも、「他の人に全遺産を渡す」といった内容の遺言があれば、基本的には兄弟姉妹が取得分を主張することはできないのです。
これはなぜなのか、兄弟姉妹の遺産を受け取るためにはどうしたらよいのかについて説明します。

遺留分とは

遺留分とは、一定範囲の法定相続人にのみ保障されている、最低限の遺産取得分です。故人の遺言で「全ての財産は愛人に」などとあったとしても、法定相続人は定められた遺留分の範囲内で遺産取得を請求できます。

ただし、法定相続人の中でも兄弟姉妹については遺留分が認められていません。ドラマなどで、資産家が亡くなった旧家に一族が集まり、遺言状が披露される瞬間を待つ……という場面がよくあります。

そして一部の人間に遺産が集中するなど極端な遺言内容と知ると、集まっている人間が憤りを見せるといったシーンに発展しますが、故人の兄弟姉妹は、その場で怒ることはできても、自分の取り分を主張することは不可能なのです。

一方で、故人の配偶者や子ども、子どもや孫といった直系卑属がいなければ親などの直系尊属は、自らの遺留分を請求することができます。

遺留分の割合

相続人

遺留分の割合(全体)

遺留分の割合(個人)

配偶者のみ

1/2

配偶者1/2

配偶者と子

1/2

配偶者1/4、子1/4

配偶者と兄弟姉妹

1/2

配偶者1/2、兄弟姉妹なし

子のみ

1/2

子1/2

配偶者と父母

1/2

配偶者1/3、父母1/6

父母のみ

1/3

父母1/3

兄弟姉妹のみ

なし

なし

 

以上のように、兄弟姉妹には、遺留分はありません。

兄弟に遺留分が認められていない理由

なぜ、兄弟姉妹に遺留分が認められていないのでしょうか。その理由は、法律に明確に示されているわけではありませんが、次の3つがあると考えられています。

法定相続人の順位が一番低いから

ただでさえ、兄弟姉妹に遺産が回ってくるのは、故人に配偶者以外の近親者が他にいない場合です。
兄弟姉妹は、法定相続人としては「第3位」。「第1位」「第2位」の人が存在するなら、第3位である兄弟姉妹には、遺言などによらなければ遺産の取得分はありません。

【法定相続人の順位】

  • 配偶者はいかなる場合でも法定相続人となる
  • 第1位…直系卑属(故人の子、子がすでに亡ければ孫が代襲相続する)
  • 第2位…直系卑属(故人の親、親がすでに亡ければ祖父母が代襲相続する)
  • 第3位…故人の兄弟姉妹(兄弟姉妹がすでに亡ければ甥姪が代襲相続する)

つまり、故人が亡くなり、配偶者と子どもがいる場合は、配偶者と子どもが法定相続人となります。
故人の親や兄弟姉妹は、法定相続人とはなりません。また、子どもが死亡している場合でも、孫が存在するのであれば、配偶者と孫が法定相続人となり、他の人は法定相続人になりません。

このように、兄弟姉妹は法定相続人として最も低い順位にあたるため、遺留分が認められていないと考えられます。

代襲相続によってさらに遠縁の甥姪へ権利が移行するから

前項で示したように、相続には代襲相続という考えがあります。兄弟姉妹が相続人に当たる場合、すでに兄弟姉妹が死亡していれば、その子が代襲相続します。故人から見れば甥姪です。

兄弟姉妹にも遺留分を認めれば、当然にその権利を甥姪まで得ることになります。しかし、甥姪は個人からみれば親族の中だとやや遠い存在です。遺言による遺産分割の遺志を、甥姪に阻まれるというのは違和感があります。これも、兄弟姉妹に遺留分が認められていない理由と考えられています。

遺産によって守られるべき存在ではないから

兄弟姉妹は、一般的には故人の庇護のもとに生きる存在ではありません。兄弟姉妹はそれぞれ自立して、別財産を持って生きていく存在です。このことも、兄弟姉妹に遺留分が認められていない理由として挙げられます。

兄弟姉妹が相続する場合

兄弟姉妹には遺留分が認められていないといっても、兄弟姉妹が故人の庇護のもとに生きている場合もないとはいえません。

他にもさまざまな事情により、兄弟姉妹が相続を受ける場合はあるでしょう。兄弟姉妹が相続を受けるには、次の3つの方法があります。

遺言を作成してもらう

生前に遺言を作成し、兄弟姉妹の遺産の取得分を明確にしておいてもらうのが一番安心です。遺言には正しい形式があるため、誤った書き方をすると無効になってしまうこともあります。

専門家にアドバイスを得たり、公証人に立ち会ってもらって作成する公正証書遺言としたりするなどして、正式な遺言を書いてもらいましょう。

保険を利用する

死亡保険金の受取人を兄弟姉妹にすることで、兄弟姉妹へ財産を渡すことができます。ただし、故人の子や親など法定相続人として高順位の人が存命の場合は、兄弟姉妹は法定相続人とはならないため、相続税を収めなければならない可能性が高くなります。

また、かなり高額な保険金を受け取ってしまうと、他の相続人とトラブルになりかねません。他の親族とも相談しながら話を進めましょう。

寄与分を請求する

兄弟姉妹が故人の介護を一手に引き受けていた、故人の事業を無償で手伝っていたなど、生前、故人に貢献していたことが証明できれば、寄与分の請求が可能です。

「こんなに尽くしているのに、兄弟が亡くなったら一銭ももらえないの?」と不満を抱えているなら、自分が兄弟姉妹についてどのように尽くしているかを後で証明できるよう、日誌をつけるようにしましょう。

兄弟姉妹が遺産を受け取るには遺言がシンプルでベスト

以上のように、兄弟姉妹には遺留分が認められていません。ともに暮らす期間が長い兄弟姉妹が、相続のときには実は遠い存在として数えられるなど、意外に感じる人も多いでしょう。

何らかの事情があり、兄弟姉妹からの遺産を引き継ぎたいと考えているなら、兄弟同士で話し合い、正式な遺言を作っておきましょう。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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