2023年6月1日
相続
【FP解説】遺留分減殺請求が改正され遺留分侵害額請求権に変更で起こる注意点

遺留分は、どのような遺言内容であっても守られる、一定範囲の法定相続人の権利分です。これを侵害されたときには、請求権を行使することができます。2019年7月、遺留分の請求に関する法律が大きく変わりました。
請求権の名前も「遺留分減殺請求権」から「遺留分侵害額請求権」へと改称されています。
どのように変わり、変わったことで何が起こるのか、なぜ変わったかなど、改正の全体像を解説します。

遺留分減殺請求とは

遺留分減殺請求とは、2019年6月まで、法定相続人の遺留分を請求できる制度名として使われていた言葉です。遺留分とは、故人の兄弟以外の法定相続人に保障されている、最低限の遺産取得分です。例えば、故人の遺言により「全ての財産は長子に譲る」とあったとします。

長子以外の子どもたちがそれに納得しないのであれば、法に定められた遺留分の範囲内で、長子に「我々にも遺産の分与を」と請求することができます。 遺留分の割合は、誰が相続人になるかにより違います。

【遺留分の例】

相続人

遺留分の割合(全体)

遺留分の割合(個人)

配偶者のみ

1/2

配偶者1/2

配偶者と子

1/2

配偶者1/4、子1/4

配偶者と兄弟姉妹

1/2

配偶者1/2、兄弟姉妹なし

子のみ

1/2

子1/2

配偶者と父母

1/2

配偶者1/3、父母1/6

父母のみ

1/3

父母1/3

兄弟姉妹のみ

なし

なし

 

例えば、男性が亡くなり、配偶者である妻と一人っ子である子どもが法定相続人だったとします。

しかし、男性の遺言により「全ての遺産である1億円を愛人に譲る」とあったなら、その愛人に遺留分を請求することができます。

ただし、全体遺産のうち遺留分が許されているのは1/2なので、あとの1/2となる5000万円は愛人の手に渡ってしまうことになります。妻と子どもは、それぞれ1/4ずつとなる2500万円について、それぞれ請求することが可能です。

改正された遺留分侵害額請求権とは

遺留分侵害額請求権とは、2019年7月の法改正により、遺留分減殺請求権から変更になった遺留分に関する請求権の名称です。名称こそ変わりましたが、先に説明した各法定相続人の遺留分に関する枠組みは一切変わりません。

ただ、変わったのはもちろん名称だけではなく、遺留分の枠組みや仕組み以外についての部分が変更になっています。次項で詳しく説明します。

法改正で変わったこと

このたびの法改正で変わったことは、主に以下の2点です。

金銭での請求権に一本化された

遺留分減殺請求では、請求できる遺産は現金に限らず、例えば土地を共有名義として遺産を分けることも可能でした。しかし、遺留分侵害額請求では、必ず金銭での請求をすることとしています。対象となる遺産が土地であっても、その土地の評価額を出したうえで金銭化し、遺留分を算出して請求するのです。 なぜ金銭での請求に一本化されたのでしょうか。

それは、土地建物を複数人で共有財産としてしまうと、持分権の処分に支障が出る恐れがあるためです。各相続人で土地建物を共有すると、次世代で相続が発生したとき、さらに複数の相続人によって権利が分けられるなど、事態はどんどん複雑になります。また、共有財産となっている土地建物を一人が「処分したい」と考えたとき、他の権利者が「処分したくない」と言えば、財産の有効活用ができなくなってしまいます。 以上のように、土地などの財産を共有すると、年を経るごとに事態が複雑化してしまいます。

これを避けるため、改正後、遺留分侵害請求によって生ずる権利は金銭債権となりました。土地建物を相続した人が、他の相続人に遺留分を分けるときは、遺留分に相当する金銭を与えることとなります。

生前贈与の時期に制限が設けられた

生前贈与についても、遺留分は認められます。「亡くなる直前に誰かへ全財産を譲り渡したなら、他の人に遺産として取られる心配はないのでは?」といった考えは、まかり通らないのです。

生前の贈与額が、他の相続人の遺留分を侵害しているのであれば、他の相続人は請求権を行使することが可能です。 旧法では、相続人への生前贈与は無期限で請求の対象となっていました。相続人以外の第三者への生前贈与については、相続開始1年前からに限定されていました。

しかし、新法では、相続人への生前贈与に関する遺留分の請求については、相続開始10年前、つまり一般的には亡くなる10年前からの生前贈与に限定されています。相続人以外の第三者については、旧法と同じ(相続開始1年前から)です。

遺留分制度の改正による注意点

遺留分制度の改正によって生じる注意点もあります。次の2点に気をつけましょう。

10年以上前の生前贈与も悪意があれば請求権の対象になる

相続開始10年以上前に生前贈与された財産であっても、他の相続人の遺留分を侵害するとわかっての贈与であったなら、請求権の対象になる可能性があります。期限をタテに、他の人の遺留分を侵害することはできないということです。

現金が用意できないときは支払期限を延期できる

遺留分を請求された側は、新法は現金でしか納めることができませんが、まとまった金額をすぐには支払えないという事情がある人も少なくないはずです。このため、支払期限の猶予を求めることができます。

遺留分が侵害されたと思ったら早めに請求を行おう

以上のように、遺留分の請求についての制度は、金銭での請求へと一本化されました。「遺産が土地しかなく、分割も面倒なので請求をあきらめた」などといった事情のある人は、一度、請求すればどのくらい遺産が手元に戻るのかをぜひ計算してみてください。

遺留分侵害請求の期限は、遺留分の侵害を知ったときから1年ですので、なるべく早めに請求を行うことが重要です。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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