「遺言書を書こうと思っているが、どう書いたらよいのかわからない」「自筆証書遺言と公正証書遺言はどう違う?」など、遺言者として疑問を抱いている人はいませんか。自筆証書遺言を作成するときは自書によるものとし、また財産目録等の作成が必要になります。記載に不備があると無効になることもあるため注意しましょう。自筆証書遺言の要件やメリット、デメリットについて解説します。
自筆証書遺言とは、自書、つまり自筆で書き上げる遺言書のことです。代筆を依頼することは許されず、自分の手で書くことになります。しかし、2019年1月13日から施行された改正法により、相続財産の全部、あるいは一部を財産目録の形で添付するときには、自書でなくてもよいことになりました。ただし、財産目録の各ページには、自筆の署名押印が必要です。
自筆証書遺言に、形式の縛りはありません。どんな紙でもよいですし、縦書きでも、横書きでも構いません。文房具についても、鉛筆など後で文字が消えてしまわない材質のものであればなんでもよいとされています。
自筆証書遺言には、5つの要件があります。それぞれ解説します。
これら5つの要件を守らなければ、無効となる恐れがあるため、注意が必要です。
先にも述べましたが、財産目録を除く部分は遺言者が自分の手で書かなければなりません。一方で、財産目録だけはパソコンや代筆でもよいとされます。
遺言書の最後に、自分の氏名を自筆で書きます。また、財産目録のうち、自筆によらない部分があるページには、ページごとに署名します。
署名したうえで、押印を行います。自筆証書遺言においては、署名したなら押印を行わなければならないと理解しておきましょう。印鑑は、実印が最も望ましいとされていますが、拇印でも可能です。遺言書が数枚に渡るなら、綴じた部分に割印をしましょう。
訂正や変更が生じた場合は、変更箇所を二重線で消したうえで、吹き出しで正しい文言を加筆します。また、変更箇所に押印したうえで、同じページ内の欄外にどこをどう変更したかを書き、署名を行います。
遺言書を作成した年月日を正しく書き入れます。遺言書が複数ある場合は、日付の新しいものが優先されます。
自筆証書遺言のメリットとデメリットは、以下の通りです。
形式は自由なので、お気に入りの紙に、お気に入りの筆で書くことが可能です。家族やお世話になった人へのメッセージを記載できる付言事項も、自筆であればより心を伝えることができます(付言事項に法的効力はありません)。
遺言書を家に置いておけるので、訂正が生じたとき、すぐに変更を加えることができます。
専門家に依頼しないため、費用は一切かかりません。
専門家に依頼しないため、遺言内容の流出を防ぐことができます。
身体能力が衰えてきた高齢者にとって、自筆は体力、気力の必要な作業です。
保管場所に気をつけないと、誰かに遺言書を発見される可能性があります。知らないうちに改ざんされるなどしたら大変です。
2020年7月10日より、「自筆証書遺言書保管制度」が始まりました。この制度を利用すれば、法務局が遺言書の保管所として原本を保管したり、画像にデータ化したりしてくれます。
生存中に遺言書が見つかる可能性がある一方で、遺言書が発見されないかもしれないというリスクもあります。遺言書を作成してあることを、身内に伝えておく必要があります。
ただし、先の「自筆証書遺言書保管制度」を利用すると、相続開始後に遺言書の証明書交付が可能となるため、相続人等は遺言書が預けられているか否かを確認することができます。
自筆証書遺言は、相続人らにより家庭裁判所で検認の手続きをすることで有効となります。検認の手続きには1か月から2ヶ月ほどの期間が必要です。
ただし、「自筆証書遺言書保管制度」を利用すれば、一定の手続きを踏むことで検認が不要になります。
専門家によるチェックを受けていないため、生前には有効と思っていても、相続開始後に遺言書をよく確認すると不備が見つかり、無効になってしまう恐れがあります。
自筆証書遺言には、メリットもデメリットも存在するため、「デメリットの方が大きい」と感じる場合には、公正証書遺言も検討しましょう。公正証書遺言は、公証人の立会いのもとで作成する遺言です。遺言者が後述し、公証人が作成するため、自筆ではありません。
また、法的に無効になることはまずありませんし、家庭裁判所の検認の必要はなく、原本は公証人役場で保管されるため、遺言書を誰かに改ざんされる恐れもなくなります。
ただ、公正証書遺言は証人が2名必要になるため、身内以外にも遺言内容を知っている人が存在することになります。また、遺言で取り扱う財産の価額に応じて手数料がかかります。さらに、内容を訂正することはできないため、訂正したい場合は新しい遺言書を作成する必要があります。手数料も、一枚目と同じようにかかります。
自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらがよいかは、以上のメリット、デメリットを比較し考えましょう。
自筆証書遺言の注意点は、以下の5つです。
遺言書でできるのは、主に「相続分や分割方法の指定」「遺贈(相続人以外への財産分与)「遺言執行者の指定」です。ほか、相続人の廃除(例えば子どもなど、法定相続人を相続人から外すこと)、子どもの認知も可能です。
遺言を作成するときに最も煩雑なのが、全財産を把握することです。遺産分割のために、財産目録を添付する必要があります。預貯金や不動産のみならず、証券、保険、自動車、宝飾骨董品などなど、自分の持ち物一切を財産とみなして目録を作成しましょう。
例えば財産をAさんに継承させたいとき、「Aに相続させる」と、ハッキリした表現を使うのが原則です。「Aに譲ります」などといったあいまいな表現は避け、明確な意思を示しましょう。また、「自宅を長男へ相続させる」など「自宅」「マンション」といった常に使っている名称ではなく、住所をはっきり明示しましょう。
相続分割について記述するときは、遺留分に注意しましょう。遺留分とは、配偶者や子どもなどの各相続人に認められている、最低限の遺産分割分です。
例えば「遺産の一切を、愛人であるBに相続させる」などといった極端な遺言を作ると、相続人らがこれを不服とし、遺留分をBに請求する遺留分侵害権の請求を行使するかもしれません。
市販されているエンディングノートには、相続に関して記入する欄があります。「これを遺言書に活用できないか」と考える人は多いでしょう。しかし、ページ内に自筆によるもの以外の文字(エンディングノートであれば項目や質問等の印字)があると、自筆証書遺言としては無効となります。
以上、自筆証書遺言の要件について解説しました。自筆で作成した遺言書は特別なものですが、気力体力ともに必要で、かつ無効となる恐れもあります。心配な場合は公正証書遺言を検討するのがいいでしょう。初めは自筆でチャレンジしてみて、難しいと感じたら公正証書にする、というのもひとつの方法です。メリットやデメリットを踏まえ、ぜひ検討してみください。