親の家を相続したら、住みますか?住みませんか?住むにしても、住まないにしても、そのまま残し続けるなら、税金やメンテナンス費用などの維持費がかかってきます。また住まずに売却するときにも、売却益に税金が課せられます。とすれば、賃貸に出したほうが家賃を得られるため、お得なのでしょうか。相続した親の家に住む場合と住まない場合、それぞれの注意点について解説します。
親の家を相続したときにかかる可能性があるのは、相続税です。
相続税とは、相続財産が一定の価額を超えるときにかかる税金のことです。「一定の金額」とは、総遺産が相続税の基礎控除額を超えるときです。相続税の基礎控除額は、「3000万円+相続人の数×600万円」となります。
つまり、相続税は、遺産全体に対してかけられます。現金や不動産など、個々の遺産に対してかけられるわけではありません。相続税がかかるかどうかを知るためには、「相続人は誰か」「遺産の総額はいくらか」を知る必要があります。それは、個々のケースによって違います。
例えば、Aさんが亡くなり、Aさんに配偶者Bさんと3人の子どもがいた場合、相続人はBさんと3人の子ども、合計4人となります。相続税の基礎控除額は「3000万円+4人×600万円=5400万円」となり、Aさんの遺産総額が5400万円を超えなければ、相続税はかかりません。
まずは、親の家だけではなく遺産全てを計算し、基礎控除額を超えるかどうかを計算してみましょう。「どうやら基礎控除額を超えそうだ」「土地の評価額がどのくらいなのかわからない」というケースでは、税理士や不動産会社等のアドバイスを得るのがおすすめです。
親の家に住む場合と住まない場合、それぞれにメリットとデメリットがあります。順にご紹介します。
親の家に住む場合、次のようなメリットがあります。
これまで賃貸に住んでいた人にとって、家賃を支払わずに済むことは大きなメリットです。生活の質をアップさせることが可能になります。
草刈りや風を通すなど、家のメンテナンスを住んでいる自分自身でできるため、家が荒れずに済みます。また、管理会社などへ委託する費用が浮きます。
親の家が自分の生まれ育った実家である場合、思い出の詰まった実家に住まうことができ、心が安らぐという人もいるでしょう。「将来は親の家で農家を」「生まれ育った環境で子育てを」といった夢が叶います。
親の家に住む場合、次のようなデメリットが考えられます。
毎年、固定資産税が発生します。
親の家が経年劣化している場合、メンテナンスにお金がかかる可能性があります。屋根の修繕などは、何十万円とまとまった金額がかかることも多いです。
通勤に便利という観点で選んだ賃貸住宅を離れる場合は、親の家に移れば通勤のための費用がかさみます。会社が支給する通勤費の上限を超え、差額分を自身で払うことになるかもしれません。
配偶者の通勤を不便にしてしまったり、子どもの転校がやむを得なくなってしったりなど、家族に負担をかける可能性があります。
親の家に住まない場合、以下のようなメリットがあります。
売却する場合は、以後の固定資産税を支払う必要はありません。また、メンテナンスなどの維持費も必要ありません。
引っ越し、転勤、天候など、家を移ることによって生じる家族の負担が一切ありません。
手放さず、賃貸に出すとしたら、毎月家賃が手に入ります。また、住人が家の手入れを行ってくれるため、メンテナンスのための費用を捻出する必要がありません。
親の家に住まない場合、以下のようなデメリットがあります。
親の家に住まない、でも売却しないといった場合には、住んでいない家のために税金や維持費を支払う必要があります。賃貸の場合は貸す前にリフォームしなければならない可能性も。
住まない、手放さない、賃貸にも出さないといった場合には、空き家となります。誰かが定期的に家へ通い、風を通し、草を刈るといったメンテナンスをしないと、家はどんどん傷んでいきます。自分が通えなければ管理会社などに依頼することになりますが、その際には管理費用が必要です。
親の家に住まず、売却したら売却益を得られますが、売却金は所得とみなされ、所得税と住民税の対象になります。ただし、マイホームの売却には特例があり税金の軽減があるため、親の家に自分も住んでいた場合には、税負担が軽くなります。
賃貸に出しても、売却しても、自分が実家へ再び住める可能性はなくなります。
親の家に住まないときの手続きについて、売却と賃貸、2つの選択肢で解説します。
親の家を売却するときには、次の順序で手続きを行います。
誰の名義か決まっていない家を、売りに出すことはできません。まずは相続を完了させましょう。全ての遺産について分割方法を決めるなかで、自分が親の家を相続することを決定します。親の遺言書にその旨が記載されていない場合は、相続人全員が出席する遺産分割協議によって決定します。
不動産の名義を相続によって変更することを、相続登記といいます。遺言書、あるいは遺産分割協議書のほか、登記申請書や印鑑証明、戸籍謄本といった必要書類を法務局に提出し、相続登記を行います。
相続登記が済んだら、自分の土地として不動産会社に売却依頼を行います。依頼を受けた不動産会社は、売値を設定し、買主を探すことになります。つまり自分の代わりに家を買う人を探してくれるため、不動産会社は買主が見つかったときには報酬額を得ることになります。この報酬額や、売却方針を決めるための媒介契約を結びます。
買主が見つかったとしても、「もう少し安ければ」など条件交渉が必要になる場合があります。お互いの条件がマッチしたら、晴れて売買契約の締結となります。「買主がローンを組めるか?」「親の家は、思わぬところが老朽化していないか?」など必要な調査は、不動産会社側が行います。売る側として契約書の内容を慎重に確認し、署名捺印や手付金を受け取ったら、親の家の売却は終了です。
親の家を賃貸に出すときは、次の順序で手続きを行います。
売却と同様に、誰の名義か決まっていない家を賃貸に出すことはできません。まずは相続を完了させましょう。全ての遺産について分割方法を決めるなかで、自分が親の家を相続することを決定します。親の遺言書にその旨が記載されていない場合は、相続人全員が出席する遺産分割協議によって決定します。
不動産の名義を相続によって変更することを、相続登記といいます。遺言書、あるいは遺産分割協議書のほか、登記申請書や印鑑証明、戸籍謄本といった必要書類を法務局に提出し、相続登記を行います。ここまでは、親の家を売りに出す場合の手順と同じです。
親の家をそのままで貸せるという人は珍しいでしょう。古い家であればあるほど、水廻りや屋根、床下などが痛み、リフォームが必要な場合があります。賃貸物件にふさわしいかどうかは、不動産会社に相談して、実際に見てもらうほうがいいでしょう。そのうえで、リフォーム費用や、後の修繕のための積立金、固定資産税、仲介手数料など、賃貸に出すために出ていくお金をシミュレーションし、赤字とならないような家賃設定をするのが大事です。
親の家に住むと決断したら、注意したいことが3つあります。
同居家族がいる場合は、必ず同意を得なければなりません。とくに遠方へ引っ越す必要がある場合には、みんなで移り住むのか、自宅と親の家の二拠点生活とするのか、子どもがこの機に独立するのかなど、誰がどこに住むのかについて、きちんと話し合っておきましょう。
兄弟がいる場合は、自分が親の家に住むことをしっかり了承してもらっておきましょう。「相続した後に家を売却して、得たお金を自分たちに分けてくれるものだと思っていた」などといわれる恐れがあります。
自分が亡くなったら、相続した「親の家」には、誰が住むでしょうか。残された人が困らないためにも、死後、家をどうするかはきちんと決めておきましょう。
以上のように、親の家は住むにしろ、住まないにしろ、それぞれメリットとデメリットがあります。さまざまな問題をクリアして自分が住んだとしても、今度は「自分が亡くなったらどうする?」という問題が降りかかってきます。どこかのタイミングで処分しなければならないことを、常に頭に置いておきましょう。