2023年8月2日
相続
【FP解説】不動産を活用した相続税対策の方法とリスクや注意点を解説


「不動産を購入すると、相続税対策になる」と聞いたことはありませんか。例えば、1億円の現金を相続したら課税対象はそのまま1億円です。しかし、その1億円で購入した土地を相続したなら評価額は数十%減額されるため、節税になります。なお特例が使えれば、さらに節税対策として有効です。不動産を活用した相続税対策の方法やそのリスクと注意点を解説します。
※この記事にある相続税対策にかかわる法律等は、全て2021年6月時点の内容です。

相続税対策に不動産を活用する理由

相続税対策に不動産を活用するのが良いとされる理由は、次の3つです。

現金よりも不動産の方が相続税評価額を下げられるから

1億円の預金を相続すれば、相続税の課税対象は、そのまま1億円です。しかしその1億円で、生前に土地を購入しておけば、相続税の課税対象額は数千万円ほどになります。これは、相続税の課税対象となる土地の価額が、購入時の価額よりも低く設定されるためです。
土地であれば、およそ20%から30%程度も評価額を下げられます。

土地に建物を建てたり賃貸に出したりすることで評価額が下がるから

購入した土地にさらに建物を建てたり、賃貸に出したりすれば、相続税の課税対象となる評価額はさらに下がります。「賃貸用のマンションやアパートを購入して相続税対策を」といわれるのは、このためです。

居住した土地や事業に使っていた土地には評価額軽減の特例があるから

相続税には、「小規模宅地等の特例」があります。被相続人の自宅や事業を営んでいた土地などを一定の要件を満たす人が相続した場合には、かなりの節税効果があります。

相続税対策に不動産を活用する方法

ここからは、相続税対策に不動産を活用する方法を5つ挙げ、具体的に内容を解説します。

賃貸用マンションを購入する

「不動産」であり、「建物」であり、「賃貸物件」であるマンションを購入するだけで、節税効果はぐっと高まります。相続税評価額は、時価の3分の1程度に抑えられます。

遊休不動産を賃貸に出す

使っていない建物があれば、賃貸に出すことで30%もの節税効果が見込めます。借主が建物を借りていることにより、貸主が不動産に対して持っている権利は制限されるため、制限されている権利に対して、建物の相続税評価額が割り引かれるためです。割引率を借家割合といい、一律30%と決まっています。
なお、賃貸用の土地についても借地権割合があり、節税効果が見込めます。借地権割合は、地域によって違います。

高齢者施設に入居した後、空き家となる自宅を賃貸に出す

自分たち夫婦は高齢者施設に住み替えて自宅が空き家となるのであれば、自宅を賃貸に出すことで節税効果があります。先述した借家割合が適用になるためです。空き家対策にもなり、一石二鳥です。

子どもを呼び寄せ同居する

自宅が不動産としてかなりの価値を有しており、子どもたちが相続すると多額の相続税がかかりそうといった場合には、子どもを呼び寄せ同居を始めることで節税効果が見込めます。亡くなっていた人が住んでいた土地を、そこに住んでいた配偶者や同居親族が相続する場合には、小規模宅地等の特例が受けられるためです。この場合、330㎡を限度に、80%の減額措置があります。
ただし、親子が同居していなくても親が一人暮らしで、相続する子どもが3年以上自分の持ち家に住まず賃貸暮らしをしている場合は、この特例が受けられます。

相続時精算課税制度を活用して不動産を贈与する

相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から、20歳以上の推定相続人である子や孫に対して財産を贈与したときに、2500万円を限度額として贈与税が控除される特例です。2500万円に達するまでは、何度でも贈与が可能です。
この制度は「相続時」に「精算」する課税制度なので、相続のときには贈与された財産が遺産として持ち戻されます。相続税の課税対象となりますが、相続税は贈与税よりも負担が小さいことが一般的なので、結果として節税効果があります。
さらに、相続税の課税対象価額は贈与時の時価で決まるため、価値が上がることが見込まれる不動産を贈与すれば、かなり節税ができるといえるでしょう。

相続税対策に不動産を活用した場合のリスク

相続税対策に不動産を活用するときには、以下のようなリスクがあります。

収益が少ないマンションを購入するとマイナスの遺産となる

駅から遠い、日当たりが悪いなど、借りる側にとってあまり魅力的ではないマンションを購入してしまうと、なかなか借り手がつかないという事態になりかねません。相続税は節税できても、子どもに残される遺産としてはマイナスのものになってしまっては本末転倒です。

一時的に多額の現金を失う

マンションを購入すると、一時的に多額の現金を失うことになるため、困窮してしまう恐れがあります。定年退職後の場合は、毎月入ってくるお金が少ないため、とくに注意が必要です。

遺産分割が困難になる

現金の場合は相続人の間で平等に分割して相続することが可能ですが、不動産となるとそうはいきません。とくに現金があまり残らず、大きな不動産が1つだけ残ったような場合には、相続人の間で争いが起こる可能性があります。

相続税対策に不動産を活用した場合の注意点

相続税対策に不動産を活用したいときは、リスクを踏まえ以下に注意しましょう。

相続後のことも考えてじっくり決断を

不動産を相続し、活用していくのは次世代の役目となります。不動産の管理は、現金よりもはるかに大変です。とくに賃貸物件を経営している場合、家賃収入があるため確定申告が必須になり、借主との交渉やメンテナンス等にも時間を割かれることになります。収益の見込みがない物件だと、手放すときにも一苦労です。このような負担を次世代にかけてもよいのか考え、子どもたちとも話し合って、じっくり決断しましょう。

家賃収入で暮らしが回るような生活設計を

マンション購入のために現金を手放した後も、不自由なく暮らせるようにしておきましょう。定年後であれば、年金と家賃収入を合わせれば暮らしが回るように生活設計し、無理が生じないようにするのが大事です。

遺言書を作成しておく

現金を不動産に換えたことで相続時に揉める可能性を減らすため、遺言書を作成しましょう。相続人が多い場合には、各人に平等に遺産を分けることができるよう、あらかじめ総遺産額を押さえたうえで不動産の購入に回せる額を割り出しておくのが理想です。

まとめ

相続税対策には不動産の活用が有効ですが、解説したようにリスクもあります。無理のない範囲で適切な相続税対策ができるよう、家族で話し合ってみましょう。相続税の計算は複雑なので、税理士に頼るほか、不動産会社など不動産の専門家にも早いうちから相談するのがおすすめです。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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