親が亡くなると、葬儀や相続などでバタバタするなか、葬儀費用、相続税といったお金が出ていきます。親が死亡したらどのくらいお金がかかるのか、不安に思う人もいることでしょう。また、「親の預貯金はどうすればいいのだろう?」と悩んでしまう人も多いと思います。親の死亡時に支払うお金や、手続きによってもらえるお金について解説したうえで、親の預貯金に関する注意点をご案内します。
親が亡くなってから、相続が済むまでにかかるお金は、以下の通りです。
葬儀ホールに祭壇を設け、親族をはじめ故人や喪主の友人、仕事関係者などを呼ぶごく一般的な葬儀を行うと、葬儀・返礼品・食事・お布施などすべて合わせて200万円程度がかかります(参考:日本消費者協会「葬儀についてのアンケート調査」2017年版)。ただし、香典をもらえるため、実際の持ち出し金額はもっと少ないと考えていいです。
また、最近では親族だけを呼ぶ小規模な葬儀である「家族葬」や、葬儀をせずに火葬だけで済ます「直葬」も流行しています。家族葬であれば100万円程度で葬儀ができる可能性があります。直葬は20万円から30万円が相場です。ただし、会葬者が少なくなるほど、もらえる香典の金額も少なくなります。
お墓がない場合は、親が死亡してからお墓を購入する必要があります。先祖代々が入ることのできる一般的なお墓の平均購入価格は、169万円程度です(参考:鎌倉新書「第12回 お墓の消費者全国実態調査(2021年)」)。
ただ、現代においては、後継者が不要な永代供養墓や、墓石の代わりに樹木を使う樹木葬など、さまざまなお墓の形が提案されてきており、価格も一般的なお墓より割安です。樹木葬なら30万円から100万円程度、永代供養墓であれば10万円からというケースもあります。
また、お墓と同様に、仏壇も供養の対象として購入を検討する必要があります。昔ながらの大きな仏壇は100万円を超えるようなものもありますが、現代の狭小・洋風住宅に適した小さな仏壇であれば、20万円程度から手に入ります。
葬儀が終わるとすぐに四十九日法要の準備が始まります。四十九日法要はとくに多くの親族を迎えるため、お金がかかる傾向にあります。法要会館の利用料、親族との食事、返礼品、お布施などを総合するとかなりの金額になるため、「高いお金を支払った葬儀が終わったばかりなのに」と慌てる人もいます。
ただ、親族の食事や返礼品は、親族からの香典で賄うという考え方が一般的なので、見た目の金額に対して持ち出しは少ないのが現実です。お布施の相場は、3万円から10万円程度です。
相続には、故人や相続人の戸籍謄本、印鑑登録証明書などさまざまな公的書類が必要です。書類の発行料は数百円程度ですが、何枚も必要だったり、郵送で取り寄せたりすれば、費用がかさみます。
また、相続内容を決定するために相続人らがたびたび集まるようだと、そのための交通費や食事代も必要になります。相続税がかからない場合でも、相続のための費用は想像以上にかかると考えたほうがよいです。
現金や不動産、宝飾類など遺産の総額が、相続税の控除額を超えた場合には、相続税がかかります。相続税の基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」です。法定相続人が2人なら、基礎控除額は4200万円です。
このように書くと、「そんな大金、自分の家にあるわけがない」と思う人もいるでしょう。しかし、都心に実家がある、一人っ子であるといった場合、遺産総額が基礎控除額を簡単に超えてしまう可能性が高くなります。
親が亡くなったとき、お金がもらえる制度があります。利用できる可能性がある主なものは、以下の5つです。
故人が国民健康保険に加入していた場合、葬祭費が支給されます。親の保険証を返還するとき、同時に申請しましょう。金額は5万円、あるいは7万円で、自治体によって違います。
故人が健康保険に加入していた場合、埋葬費が支給されます。こちらも保険証の返還時などに申請でき、金額は5万円です。
故人が長く入院していた、治療に多額の費用がかかったような場合には、死亡後に精算される医療費がかなり高くなるケースがあります。高額療養費の払い戻しの対象にならないか、調べてみましょう。
高額療養費制度とは、同一の暦月内にかかった保険適用分の医療費が、自己負担限度額を超える場合に、超過分が払い戻される制度です。自己負担限度額は収入や年齢によって違い、また制度適用となるには「同一病院の同一診療科であること」や「保険適用分であること(差額ベッド代などは不可)」など条件があるため、健康保険組合に問い合わせるのがおすすめです。
故人が年金受給者だったとき、まだ支給されていない年金については、生計を同じくしていた親族が受け取れます。年金の受給者死亡届を提出する際に、受け取れる年金がないかどうかを確認しましょう。
遺族厚生年金は、厚生年金の被保険者や受給権者が死亡したときに、死亡者によって生計を維持されていた家族が受けられる年金で、優先順位は「子のある配偶者(夫は55歳以上)または子」「子のない妻または55歳以上の夫」「55歳以上の父母」「孫」「55歳以上の祖父母」となります。年金額や受給年数は、被保険者の収入や家族構成、年齢等により違ってきます。また支給要件にも詳細があるため、個別に問い合わせたほうがよいです。
遺族基礎年金は、国民年金の被保険者や受給権者が死亡したときに、死亡者によって生計を維持されていた「子のある配偶者」や「子」に支給される年金です。この場合「子」とは、18歳未達年度の末日を経過していない子か、20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の子に限られます。年金額は「78万900円+子の加算」です。子の加算とは、第1子・第2子が各22万4700円、第3子以降が各7万4900円です(令和3年4月分より)。
死亡一時金は、国民年金の第一号被保険者として3年間(36ヶ月)保険料を納めた人が、老齢基礎年金や障害基礎年金を受けずに死亡したとき、生計を同じくしていた遺族に支給される年金です。金額は、保険料を納めた月数に応じて変わります。
この死亡一時金は、遺族基礎年金を支給される場合には、支給されません。
親が亡くなったとき、「親の貯金は使ってはいけないのか?」「相続が始まるまで、凍結しなければならない?」という考えがよぎるでしょう。基本的にはその通りで、全ての遺産について遺産分割を決め、相続人全員がその内容に納得するまで、親の預貯金には触れません。
しかし、先に述べたように葬儀やお墓、仏壇等にかかる費用はかなりの金額です。まずは喪主となる人が費用を立て替え、後で相続時に親の預貯金から清算するのが一般的ですが、それでは負担が大きいと感じる人もいます。
そこで活用したいのが、預貯金の仮払い制度です。これは2019年の相続法改正により新設された制度で、一定の金額であれば相続決定前であっても口座からの引き出しが可能になるというものです。仮払いが可能となる金額は、一つの金融機関につき「相続開始日の預金残高×1/3×請求する相続人の法定相続分」です。上限は150万円です。
150万円ほどを引き出せれば、葬儀費用の大部分をカバーすることができるでしょう。親が亡くなる前に慌てて大金を口座から下ろしたり、金融機関へ個別に相談したりといったことをせずに済みます。
以上を踏まえて、親が亡くなる前にできることは、以下の3点といえます。
葬儀や墓、仏壇にかかる費用は高額ですが、金額をあらかじめ知っておけば、用意しておくことができます。葬儀の見積もりは数社から事前に取ることで相場が分かるうえ、信頼できる葬儀社を見極める材料にもなり一石二鳥です。
なお、お墓や仏壇は、生前に親自身が購入することで相続税対策にもなります。墓や仏壇は祭祀財産と呼ばれ、相続税の対象にはならないためです。
相続税がかかるのか、かかるとしたらいくらなのかは、生前に大体の費用を知っておくことができます。親の財産を全て書き出し、価額の総額を掴みましょう。そして、基礎控除額をはみ出るかどうか計算します。
対象となる不動産がたくさんある場合には、相続税に強みのある税理士へ相談するのがいいでしょう。不動産の正確な価額を計算してくれるうえ、相続税がかかるようなら節税についてのアドバイスも得られます。また、実際に相続が発生したときも、頼りになります。
遺産分割協議の手間を省くためにも、親には遺言書を書いてもらっておきましょう。兄弟が多いなど後で揉めそうな場合には、生前に親を交えて家族会議を設けておくのがベスト。みんなが納得の相続を、スムーズに進められます。
以上、親が死亡した後にかかるお金や、もらえるお金について解説しました。「かかるお金の方が、もらえるお金よりも圧倒的に多い」という印象を持たれた方が大半でしょう。いざというとき慌てないよう事前に確認や準備を進めておき、心づもりをしておきましょう。