2023年9月16日
相続
【FP解説】物納とは?相続税の納税や延納が難しいときに使える制度をわかりやすく解説

物納とは、相続税を金銭で一括納付、あるいは延納することが難しいときに、金銭以外の遺産そのものを納付することを指します。要件が揃えば、土地建物などの不動産を納入することで、相続税を支払うことが可能です。しかし、物納には複数の要件があり、納入する財産の種類や状態によっては認められない場合もあります。相続税の物納について、わかりやすく解説します。

物納とは

物納とは、金銭以外の財産によって税金を納めることです。数ある税金のうち、相続税だけに、この物納が許されています。

相続税の物納は、金銭での一括納付が難しい場合や、担保を提供することによって、年賦で納付する延納でも困難なときにだけ認められます。よって一括納付が難しければ、まずは延納ができないかどうかを検討することになります。

延納は、相続税額が10万円を超え、金銭納付が困難な事由がある場合に使える制度です。延納税額、および利子税の額に相当する担保を提供することで利用できます。延納税額が100万円以上で、かつ延納期間が3年以上のときに、担保が必要になります。担保にできる財産の種類には、国債、地方債、社債その他の有価証券で税務署長が確実と認めるもの、土地、建物、陶器・登録される船舶や飛行機などで保険に附したもの、税務署長等が確実と認める保証人の保証などがあります。

延納によっても金銭納付が難しいというときに、初めて物納が可能となります。

物納の要件と物納できない財産

物納を選ぶときには、次の3つが要件になります。

延納が難しく、納付困難な金額を限度としていること

国税の納付は金銭で行うのが原則のため、まずは延納ができないかを考えなければなりません。また、できる限り金銭で納付するのが望ましいとされるため、納付困難な金額ギリギリの財産を物納財産として選ぶことになります。「本当は払えるお金があるけれど、この土地を丸ごと物納すれば、相続税を全て払えるだろう」という考え方はNGです。

物納できる財産を、順位の高いものから納付対象とすること

物納できる財産は、不動産、船舶、国債、地方債、株式等、動産などです。これらの財産を、高順位のものから物納に充てます。順位については後述します。

なお物納に充てられない財産として、管理処分不適格財産があります。管理処分不適格財産とは、管理や処分が困難になる可能性が高い財産のことです。例えば不動産であれば、担保権の設定登記がされている、権利の帰属について争いがある、境界が明らかでないなどの事情があると、管理処分不適格財産とみなされます。株式についても、手続きが不十分だったり、共有株式だったりすると、物納には使えません。

相続税の申告期限までに申請する

相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。この日までに、物納申請を行う必要があります。

物納できる財産の種類と順位

物納できるのは、日本国内にある財産であり、種類が限定され、かつ順位があります。物納できる財産の種類と順位は以下の通りです。

第1順位

不動産、船舶、国債、地方債、上場株式等があれば、他に財産があったとしても、先に物納の対象となります。株式の種類としては、特別の法律により法人が発行する債券や出資証券を含むものの、短期社債等は除かれます。

第2順位

非上場株式等が第2順位となります。この場合も、特別の法律により法人の発行する債券や出資証券が含まれますが、短期社債等は除かれます。

第3順位

第3順位は動産となります。宝飾骨董品や美術品など、あらゆる物品がこれにあたります。ただし、法律で規定されている特定登録美術品の場合は、順位に関わらず一定の書類を提出することで物納に充てられます。

物納劣後財産とは

物納劣後財産とは、物納に充てられる順位が後れる財産のことを指します。物納後、売却などがしにくい事情があるため、他に物納に充てるべき適当な財産がない場合に限って、物納財産として認められます。例えば、以下のような事情がある財産です。

  • 耕作を目的とする貸借権が設定されている土地
  • 法令違反の建築建物やその敷地
  • 相続が発生する前から被相続者の配偶者が住んでおり、住み続ける予定がある住宅
  • 銭湯など、管理の難しい建物やその敷地
  • 保安林の中の土地

物納劣後財産になるものは他にもあります。詳しくは、以下を参照してください。
No.4214 相続税の物納(国税庁)

これら物納劣後財産を含めた物納の順位は、以下の通りです。

第1順位:

①不動産、船舶、国債、地方債、上場株式等
②不動産、船舶、国債、地方債、上場株式等のうち、物納劣後財産

第2順位:

③非上場株式等
④非上場株式等のうち、物納劣後財産

第3順位:

⑤動産
⑥動産のうち、物納劣後財産

まとめ

遺産のうち、とくに不動産の占める範囲が多く、かつ評価額が多額になると、物納せざるを得ない可能性が高くなります。「実家は田舎だけれど、土地は多く所有しているな」「都心の一等地にマンションが複数ある」といった人は、親が亡くなったときの相続税について、早めに調べておきましょう。物納が生じそうなときには、相続税に強い税理士への相談が安心です。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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