2023年9月16日
相続
【FP解説】生前贈与の非課税枠が2500万円?相続時精算課税制度のメリデメと注意点

相続時精算課税制度を使えば、生前に受ける贈与の非課税枠は2500万円になります。ただ、これは贈与税に関してのことであり、相続発生時には贈与された財産に相続税がかかる可能性があります。「かかるのが贈与税か、相続税かの違いだけ」と考えると意味のない制度に思われるかもしれませんが、とくに不動産の贈与については大きな節税効果が見込めます。相続時精算課税制度のメリットやデメリット、注意点について解説します。

生前贈与の非課税枠は2500万円

生前に金銭や不動産などによる贈与を受けた場合、贈与税がかかります。生前贈与の非課税枠は、2500万円です。ただし、これは「相続時精算課税制度」を使ったときに限ります。

通常、とくに何も申請しなければ、贈与については「暦年課税制度」が適用されます。暦年課税制度とは、誰かから贈与を受けた場合、年間にして合計110万円までは非課税になる贈与税の制度です。年間110万円を超えると贈与税が課税され、贈与税の金額は、贈与を受けた金額によって変わってきます。また、金額が大きくなるほど税率が高くなるよう設定されています。

一方で、相続時精算課税制度を選択すると、一人の贈与者から受け取る財産が2500万円に達するまでは、贈与税が非課税になります。原則として、60歳以上の父母または祖父母から、20歳以上の子または孫に対して財産を贈与する場合に選択できる制度です。総額2500万円に達するまでは何度も贈与が可能ですが、「相続時精算」という名前の通り、相続が発生したときには、贈与財産が相続財産へと持ち戻され、相続税が発生する可能性があります。

つまり、暦年贈与であれば年間110万円までは非課税で、そのぶんが相続時に相続税の対象になることはありませんが、相続時精算課税制度を選択すると、贈与を受けた財産が丸ごと相続したものとみなされ、相続税の対象となるのです。生前に贈与を受けた財産と、他の遺産とを合わせた価額が基礎控除額を超えれば、相続税が発生します。

相続時精算課税制度のメリット

相続時精算課税制度を選んだらどのようなメリットがあるかを解説します。

贈与額が2500万円を超えた場合、一律20%しか贈与税がかからない

相続時課税精算制度では、2500万円を超過した部分について贈与税が発生します。ただし、どんなに超過しても、一律20%しか贈与税がかかりません。贈与税は最低でも10%、最高で55%もの課税率となります。贈与額が大きければ大きいほど、節税効果があります。

また、2500万円を超過した金額に対して支払う贈与税は、後に相続が発生したとき、相続税から控除されます。

資産価値が上がる資産を贈与した場合は節税効果が見込める

相続のときに持ち戻される贈与財産の価額は、贈与時の価額です。つまり、資産価値が上がると見込まれる資産を贈与しておけば、節税効果が期待できます。

例えば、相続時課税精算制度を使って、1000万円の値打ちがある絵画を子どもに贈与したとします。贈与した親が亡くなったときには鑑定額が2000万円に跳ね上がっているとしても、相続税の対象となるのは、贈与時の価額である1000万円となります。もしも絵画を生前贈与することなく、そのまま遺産となってしまったら、相続税の対象となるのは相続発生時の鑑定額である2000万円です。

収益不動産を贈与した場合は節税効果がある

賃貸マンションなどの収益不動産を、親がそのまま持っていると、家賃はどんどん親へ振り込まれていき、やがて相続財産となります。収益が上がれば上がるほど、相続税の対象遺産額は増えて行ってしまいます。

一方で、子どもや孫に収益不動産を贈与しておけば、不動産そのものはもちろんのこと収益も受贈者のものになり、相続財産には数えられません。こうして、相続税を節税することができます。

相続時精算課税制度のデメリット

相続時課税精算制度には、以下のようなデメリットもあります。

暦年課税制度が使えない

一度、相続時課税精算制度を選択すれば、同じ贈与者からの贈与については暦年課税制度が選択できなくなります。年間110万円まではいっさい税金がかからない暦年課税を選ぶか、贈与税が相続税に切り替わる相続時課税精算を選ぶか、家族で慎重に話し合いましょう。

他の税金はかかる

不動産を贈与により取得した場合、免許登録税や不動産取得税がかかります。一方で、相続により不動産を取得したら、不動産取得税はかからず、免許登録税も贈与よりは負担が少なくなります。とくに不動産の贈与を検討する場合は、贈与税や相続税についてのみ計算するのではなく、他の税金についても算出し、トータルでメリットがあるかどうかを見極めましょう。

小規模宅地等の特例が使えない

相続発生時、一定の条件を満たせば、土地の相続税評価額を減額することができます。減額幅は、最大80%にもなります。しかしこの特例が適用されるのは「相続」に関してだけです。贈与された土地については適用になりません。自宅や事業所等の贈与を考えている人は、とくに注意が必要です。

相続時精算課税制度の注意点

相続時精算課税制度については、以下のような注意点もあります。

贈与を受けた不動産は相続税の物納に使えない

相続税には、金銭による一括納付や延納ができない場合にだけ物納が認められています。しかし、相続時精算課税制度の対象となった贈与財産を、物納することはできません。相続財産のうち、大きな部分を占める不動産等を贈与しようと考えている人は、相続税として納付できる金銭が残っているかどうか注意しましょう。

必ず贈与税の申告をしなければならない

相続時精算課税制度を選択すると、たとえ10万円といった少額の贈与であっても、贈与税の申告が必要になります。贈与税の確定申告は、毎年3月15日が期限です。毎年のように贈与税申告をしなければならない可能性もあるので、注意が必要です。

相続発生時のため必ず記録を残す

相続時精算課税制度を選択し、かつ一括贈与を行わない場合には、いつか訪れる相続発生時のために、必ず贈与の記録を残しておかなければなりません。贈与税申告の控えをきちんととっておき、相続時に全ての贈与を持ち戻しできるようにしましょう。

まとめ

生前贈与の非課税枠は、相続時精算課税制度を使えば2500万円です。制度にはメリットもデメリットもあるため、選択の際には税理士など専門家の助言も得ながら考えましょう。検討の結果、「申告のいらない暦年課税の方が気楽」という結論になることもあります。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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