親子間売買とは、親名義の不動産を子どもへ売却することです。贈与ではないため贈与税はかからず、相続対策にもなるというメリットがあります。しかし、不動産会社に相談せず、親族間の個人間売買とすることで、売買契約書を取り交わさないことなどから起こる可能性のあるトラブルも。親子間売買のメリットやデメリットなど、注意点をわかりやすく解説します。
親子間売買とは、親子の間で不動産の売り買いを行うことです。親子の間で売買契約が取り交わされるというだけで、一般的な売買とそう変わりはありません。
まずは不動産の市場価値を知り、価格設定を行います。固定資産税評価額を確認し、また近隣で売りに出されている物件の市場価格を参考にしながら、あまり市場価格と乖離しないような売値設定を行いましょう。
売買価格、瑕疵担保、解約条項などについて話し合い、お互いが納得すれば売買契約書を作成します。司法書士等、専門家の手を借りることもできます。
売買契約締結後は、不動産の名義変更を行います。登記申請には、登記簿謄本、戸籍、住民票などが必要で、必要書類は個々のケースで違います。契約成立前に必要書類を調べ、取り寄せておくとスムーズです。
不動産売買の際には、買主に不動産取得税がかかります。税率は、固定資産税評価額×4%で、売主には譲渡所得税がかかるケースがあります。不動産を購入したときよりも高値で売却し、利益が発生すれば、課税対象となります。また、復興特別所得税と住民税も課税対象となります。
不動産の親子間売買には、以下の3つのメリットがあります。
きちんと売買していれば、「みなし贈与」とはみなされないため、贈与税はかかりません。
親の死後、不動産を誰が相続するかで揉めることがなくなります。生前に所有者を変更しておけば、遺言を残す必要もありません。
年老いた親がローンを払いきれなくなったときに、親子間売買で子世代が親の家を買うことにより、親のローンを子世代が肩代わりできます。親は住み慣れた家を手放さずに済み、子世代は家という財産を得ることができます。親との同居、二世帯住宅への建て替え、親の死後に賃貸に出すなどして利活用できます。
親子間売買には、次の3つのデメリットもあります。
親子の間の売買だからと、市場価格よりもかなり安い価格で取引を行ってしまうと、あとで贈与税を納めないための空取引に近い売買、つまり「みなし贈与」であると税務署から指摘を受けてしまうことがあります。すると市場価格と売買額の差額に対して贈与税を納めなければならないかもしれません。
タダ同然で売買する、売買契約書をきちんと交わさないなどといったいい加減な親子間売買を行ってしまうと、他の兄弟などの親族から「生前贈与なのでは?」など不信感を与えてしまう可能性があります。親子間といえどもきちんと売買契約書を交わし、第三者に取引内容をいつでも提示できるようにしておきましょう。
金融機関は親子間売買の住宅ローン融資に消極的です。子どもが十分な資金を準備できない場合はローンを組むことになりますが、住宅ローン以外の、例えば不動産担保ローンのような選択肢を考えなければならないかもしれません。
以上のメリットとデメリットを踏まえた、親子間売買の注意点は以下の通りです。
みなし贈与と捉えられないために、必ず市場価格を確認してから売値設定をしましょう。決して子世代の懐具合だけを見て売値を決めてはなりません。価格設定が分からない場合には、不動産会社を介するのも手です。不動産会社を間に入れれば、適切な価格設定、契約書の作成、登記に必要な書類のリストアップなどを手伝ってもらえます。
親族間のトラブルを避けるため、子どもたちや兄弟にはこのたびの親子間売買について事前に話して、了承を得ておきましょう。不服のある親族がいる場合には、契約締結前にきちんと話し、納得してもらいます。
親子間売買は住宅ローンが組みづらいため、子世代にまとまった資金がないときには、他のローンについて調べるほか、親子間売買以外の手段についても検討しましょう。
例えば、税金対策ではなく親の資金繰りが苦しく家を売却したいと考えているなら、「リースバック」という方法もあります。自宅を売却した後も家賃を支払うことでわが家に住み続けられるもので、売却益を家賃に振り替えることが可能です。また、「リバースモーゲージ」は自宅を担保にしてお金を借り、元金は自分の死後に相続人が家を売却するなどして支払う方法です。このように、親子間売買のほかにも、いくつか方法があります。
親子間売買は、生きているうちにできる相続対策の一つです。相続ではなく子どもに家を売っておけば、相続争いがなくなり、相続税の対象にもなりません。また、正しく売買することで、贈与税の対象にもなりません。不動産の相続に関して悩んでいる方は、ご一考されてみてはいかがでしょうか。