2023年10月7日
相続
【FP解説】生命保険・死亡保険金を分ける必要がある?保険は財産分与に考慮されるのか?

生命保険の被保険者が亡くなると、生命保険金が発生します。その保険金は、相続財産の一部になるのか、相続税はかかるのかなどについて、疑問を持つ相続人は少なくありません。また保険金受取人が設定されていても、受け取る金額が多額であれば、「遺産の一部なのでは」「遺産分割の対象となるのでは」という声も出てくるでしょう。生命保険・死亡保険を分ける必要があるのか、保険は財産分与に考慮されるのかについて解説します。

死亡保険金を分ける必要がある?

死亡保険金は、原則的には相続財産としては扱われません。受取人が、被保険者の死後に受け取った、固有の財産として扱われるためです。例えば受取人が被相続人の配偶者である場合、生命保険金の全ては配偶者の財産となります。
しかし次のようなケースでは、死亡保険金が相続財産へ持ち戻される恐れもあります。

  • 死亡保険金が特別受益に値すると判断される場合

(死亡保険金を受け取る相続人と、そうではない相続人の間に、著しい不公平があるとき)

  • 明らかに相続対策の保険契約が結ばれていたとき

(亡くなる直前の多額契約など)

通常の契約、つまり被保険者が、自分が亡くなった後の家族の生活を慮ってかけた保険金であれば、何ら問題はないです。しかし、遺産総額と比べてもかなり多額の保険金であったり、保険金をかける目的が相続対策であったりするときには、他の相続人とトラブルになり、また相続財産として持ち戻される事由にもなります。

死亡保険金は財産分与に考慮される?

死亡保険金が財産分与に考慮されるケースとして代表的なのが、受取人を「相続人」としている場合です。名指しではなく「相続人」を受取人としている場合には、法定相続分の割合に従って、各相続人が保険金を受け取れます。

しかし、死亡保険金の受取人が「相続人」となっているがために分与対象となるだけで、そもそも死亡保険金は遺産とはみなされないという点だけは、覚えておきましょう。遺産ではないことから、相続放棄をしていたり、欠格者・排除者であったりしたとしても、受取人として記載がある限りは保険金を受け取ることができます。

死亡保険金を分ける場合の注意点

もしも死亡保険金を分けるときには、以下に注意しましょう。

受取人が指定されている場合は贈与税の対象となる

受取人が指定された死亡保険金を、他の相続人と分割する場合、それは遺産分割ではなく、受取人から他の相続人への贈与とみなされます。一定の金額を超えると贈与税がかかるため、注意しましょう。贈与税は、年間110万円までであれば無税です。

金額が大きいときには「相続時精算課税制度」を利用することができます。これは、2500万円までは贈与税を納めずに贈与を受けられ、相続発生時に相続財産へと持ち戻される制度です。しかし、この制度は20歳以上の直系尊属である推定相続人にしか適用されません。受取人が親、分け合いたい人がその子であれば制度を利用できますが、子世代が兄弟皆と保険金を分け合う際には使えないので注意しましょう。

受取人が「相続人」の場合は法定相続分に従って分ける

受取人が「相続人」となっている場合は、法定相続分に従って死亡保険金を分けるといいでしょう。主なケースの法定相続分は以下の通りです。

  • 被保険者に、配偶者と子どもがいる場合

配偶者は1/2を、子どもたちは残りの1/2を平等に分割して受け取ります。

  • 被保険者の配偶者はすでに亡く、子どもだけがいる場合

子どもたちが全ての遺産を平等分割して受け取ります。

  • 被保険者の配偶者と、親がいる場合

配偶者は2/3を、親は残りの1/3を受け取ります。

  • 被保険者の配偶者と、兄弟姉妹がいる場合

配偶者は3/4を、兄弟姉妹は1/4を受け取ります。

ただ、この配分はあくまで法定相続の決まりを利用した、公平な分割の一例です。これを目安としたうえで、実際には相続人間の話し合いで分割割合を決めましょう。

他の遺産も考慮して不公平感が出ないよう気をつける

死亡保険金を、相続人同士で平等に分配したとしても、そもそも他の遺産相続のバランスが悪ければ相続トラブルのもととなってしまいます。例えば遺言で他の兄弟よりもたくさんの遺産を引き継ごうとしている子どもに、さらに保険金が与えられるのは不公平という考えもあります。相続人間で、よく話し合う必要があります。

死亡保険金の受取人を決める注意点

死亡保険金の受取人を決めるときには、以下の3つに注意しましょう。

相続人以外を受取人にするときは親族への説明が不可欠

内縁の配偶者など、事情あって相続人以外を受取人に選ぶのであれば、親族への説明が不可欠です。保険金は遺産ではないので、誰が受取人であってもかまいませんが、相続人たちの了承がないと禍根を残すことになりかねません。保険をかける際にきちんと他の家族へ説明しておきましょう。

保険金は遺産ではないが、相続税がかけられる

保険金は遺産ではありませんが、みなし相続財産として、相続税の対象となります。ただし「500万円×相続人の数」までは非課税です。保険金を設定するときには、頭に留めておきましょう。

あまりに多額の保険金はかけない

残される家族のことが心配で、つい多額の保険をかけてしまうという人もいるかもしれません。しかし、あまりに多額の保険は、あなたの死後、相続人の間にトラブルを発生させる原因となるかもしれません。また、税務署からただの相続対策であると勘繰られてしまい、相続税が発生する可能性もあります。このようにデメリットは大きいため、あくまで残された家族の生活費のためと割り切って、保険額を設定しましょう。

まとめ

死亡保険金を分けるのは、受取人が個人指定されておらず、単に「相続人」となっているときが多いでしょう。また、「あまりに多額だから」と相続人同士で話し合い、分けるという可能性もあります。相続人同士に禍根が残らないよう、当事者間でじっくりと話し合い、遺産のことも含めて公平に分けることが重要です。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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