2023年6月30日
資金調達
【FP解説】リースバックとは?メリットやデメリットと失敗しないための注意点


自宅を売却した後も、家賃を支払うことで住み慣れた家に暮らせる仕組みがリースバックです。「住宅ローンがあってもリースバックを利用できる?」「リバースモーゲージとはどう違う?」「売却価格はどのくらいなのか?」といった疑問を抱える人のために、リースバックの仕組みを解説したうえで、不動産売却やリバースモーゲージとの違いを説明します。さまざまなサービスと比較して、最良の方法を選べるようにしましょう。

リースバックとは

リースバックとは、自宅を売却したうえで、売却先の会社と賃貸借契約を結び、家賃を支払ってそのまま住み続けることができる仕組みです。通常の不動産売却や、リバースモーゲージとの違いについて、順にご案内します。

不動産売却との違い

通常の不動産売却においては、売却金を得て所有権を手放し、その後は引越しをするなどして住み慣れた我が家を後にします。のちのち「やはり我が家は大切。買い戻したい」と考えても、一度手放した家を購入できる可能性は限りなく低いと考えていいでしょう。すでに誰かが購入したり、売却先の会社が家を解体したりするなどして新たな投資を行っている可能性が高いためです。

一方でリースバックは、売却金を得て所有権を手放すところまでは不動産売却と同じですが、さらに賃貸借契約を結ぶことで、我が家にそのまま住むことができます。引っ越しの費用は不要ですし、買戻しについても契約時に条件を確認し合うことで可能となります。

最近では、任意売却とリースバックを組み合わせた商品も開発されています。任意売却とは、住宅ローンの返済が滞った場合に、契約者が金融機関の合意を得て家を売却する方法です。いったん任意売却で家を手放し、買主と賃貸契約を結ぶことができれば、売主は住処を失わずにすみます。

リバースモーゲージとの違い

リバースモーゲージとは、自宅を担保に借り入れを行う仕組みです。毎月の返済額は利息のみで、元金は契約者の死後、相続人が自宅を売却するなどして返済を行います。お金の取引を行っても変わりなくわが家に住み続けられるという点では、リースバックと似通っています。

リバースモーゲージとリースバックの大きな違いは、リバースモーゲージは自宅の所有権を手放さないことに対し、リースバックは売却によって所有権を手放すという点です。この違いによって、双方にメリットとデメリットが生じてきます。

リースバックのメリット

リバースモーゲージや通常の不動産売却と比較した際、リースバックの主なメリットは、以下の5点です。

住環境に影響が出ない

引っ越しをしなくて済むため、住み替え費用を捻出する必要がありません。ほか、子どもを転校させなくてよい、通勤時間やルートが変わらない、友人との交流も変わりなくできるなど、環境に変化を及ぼさないことによるメリットは多大なものです。

固定資産税の負担がなくなる

所有権を手放すため、固定資産税を支払う必要がなくなります。メンテナンス費についてはどちらが負担するかを契約時に話し合うことになりますが、毎年の出費で会った固定資産税の負担がなくなると思うと、精神的にもだいぶ楽になるでしょう。

相続の心配がなくなる

自宅の所有権が買主に移るため、相続について考える必要がなくなります。子世代はそれぞれ自分の家を持っている、子どもがいないなど、家の継ぎ手に悩んでいる人には有効な仕組みです。

年齢制限や資金用途制限がない

リバースモーゲージの場合、多くの金融機関では契約年齢を50代~60代以上としています。なお、「事業用はNG」など資金用途について制限があるのが一般的です。公的機関が用意している制度の場合は、さらに条件が厳しくなりがちです。
一方、リースバックは年齢制限や資金用途に関する縛りはありません。若くても、投資用であっても、問題なく取引できます。賃貸借契約を交わすための審査があるのみです。

一括でまとまった資金が手に入る

一括でまとまった売却金を手に入れることができるので、「子どもの援助をしたい」「近い将来の住み替えのため、費用が必要」といった用途にも使えます。

リースバックのデメリット

リースバックの主なデメリットは、以下の5点です。

家賃が高め

リースバックでは、家賃が市場相場よりもやや高めに設定されています。よって、リースバック業者から提案された家賃の額によっては、「近くの安いアパートに引っ越したほうがいいかも…」という印象を受けるかもしれません。リースバックを検討する際は、通常の売却と住み替えも同時に検討し、費用を抑えられる方を選びましょう。
また、売却額を安く設定すると、家賃が抑えられる可能性が高まります。

売却額が相場よりも低くなる

リースバックの売却額は、市場価格の6割から8割程度です。居住者が家賃を支払えなくなる、後で売却するときに市場価格が下がってしまうなどのリスクに備えるため、売却額が抑えられています。ただ、先述したように、売却額が下がるほど賃料が安くなるといった利点はあります。
リースバックによって得た売却額を、生活資金だけではなく投資など事業用に使いたいと考えている人には、この「6割から8割」という数字は重い意味を持ちます。すぐの住み替えが可能であれば、通常の不動産売却も考えたほうがいいでしょう。

物件によっては思うような売却益が出ない

売却額は、物件の条件によって変わってきます。住居が古い、駅から遠いなど投資に不利な条件ばかりだと、思うような価格では売れないかもしれません。

自宅に長く住むと家賃が売却額を超えることもある

前述したように、リースバックの家賃は高めです。長く住んでしまえば、支払った家賃の総額が売却額を超える恐れもあります。長く住んだ我が家は居心地がいいですが、「終の棲家」とするには高額すぎるかもしれません。割安な物件への住み替えや、高齢者であれば施設への入居までの一時的な住まいとして考えたほうがよいでしょう。

買主の意向により立ち退きの可能性も否めない

リースバックの契約をすれば、所有権が買主に移ります。不動産としてさらに違う業者へ転売されると、新しいオーナーから急に家賃の引き上げをお願いされたり、立ち退きの要請が来たりするようなこともないとはいえません。

リースバックの注意点

リースバックを検討するなら、次の5点に注意しましょう。

まずは他の不動産利用方法と比較する

リースバックを取り扱う会社はたくさんありますが、「どの会社が良いか」と吟味する前に、まずは他の方法と比較してみましょう。紹介してきたように、通常の不動産売却やリバースモーゲージといった方法も考えられます。それぞれの違い、メリット、デメリットを比較し、最良の方法を決めることが大事です。

「将来、どこに住みたいか」を明確にする

リースバックを選択すると、家にそのまま住み続ける限り、相場よりも高めの家賃を支払い続けなければなりません。つまり潤沢な資金がなければ、そのうち住み替えることを検討するのが現実的です。「●年以内に高齢者施設を探し入居する」「売却金を元手に子ども夫婦と二世代住宅を作る」など、将来の住まいについて具体的に決めておきましょう。

相見積もりによって適正な売却額を出してくれる会社を選ぶ

大事な不動産である自宅に対して、適正な売却額を出してくれる会社を選びましょう。高い売却額を提示してくれる会社が、良い会社とは限りません。売却額を高く設定する分、家賃も高い恐れがあるためです。適正価格を知るには、不動産系の数社を含めた相見積もりが一番です。

相続人の了解を得ておく

リースバックの契約をしてから「家を継ぎたかった」と相続人に言われる可能性があります。このため、相続人の了解を得ておかなければなりません。所有から賃貸借に切り替わること、相続のときには遺産として数える必要がないことを伝えましょう。

業者の信頼性はマスト

複数の会社から相見積もりを取り、「ここに決めたい」という会社をリストアップできたら、信頼性を見極めましょう。賃貸借契約により、長い付き合いをすることになる会社です。急に倒産するなどしてオーナーが変わると、すぐに立ち退きを要求されてしまう恐れもあります。
上場企業や大手企業なら倒産のリスクはひとまずないと思っていいでしょう。小さい会社の場合は、経営が安定している企業かどうかを確認します。口コミなどの評判を押さえることも重要です。

まとめ

以上、リースバックの基本的な仕組みや他の不動産取引との違い、メリットやデメリットについて解説しました。あなたの大事な不動産をどう活用するかは、あなた次第です。それぞれの活用法を比較して、自分や家族にとってベストな方法を見つけましょう。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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